[CML 010667] ご参考:ペトカウ効果について―低線量被曝の恐ろしさ

Yasuaki Matsumoto y_matsu29 at ybb.ne.jp
2011年 7月 11日 (月) 20:27:07 JST


みなさまへ    (BCCにて)松元

『週間現代』7月23日発行 7月16・23日合併号に、「20年後のニッポン、がん奇形奇病知能低下」と題して、肥田舜太郎、ドミトロ・M・グロジンスキー、今中哲二、崎山比早子、河田昌東、矢ヶ崎克馬、山内知也、馬淵清彦の諸氏の専門家の発言が掲載されています。

その記事は次のような書き出しではじまっています。
『怖れていたことが、ついに始まった。東京電力・福島第一原発の事故によって大量放出された放射性物質が人体を蝕み始めたのだ。広島での被爆体験があり、以来、放射能が人体に及ぼす悪影響の研究を続けてきた医師・肥田舜太郎氏は、こう警告する。
「先日、福島の5歳の子供に紫斑が出たという相談を受けました。被曝による症状は、まず下痢から始まり、次に口内炎などの症状が現れます。それから鼻血が出るようになり、身体に紫斑が出始める。この子供さんも被曝の初期症状であるのは間違いない。広島・長崎の被爆者と同じ順序で症状が進行しています。」』

「低線量被曝の方が危険」というこの記事のベースになっているのが、先日も紹介したこの新刊本です。

新刊『人間と環境への低レベル放射能の脅威―福島原発放射能汚染を考えるために―』ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス[著]、肥田舜太郎、竹野内真理[訳](あけび書房、3990円)

本書は、日本では「原爆被爆者被害認定訴訟での科学的根拠として引用されている」以外にはほとんど知られていない「ペトカウ効果」について幅広く論証した低線量被曝についての重要な基本文献です。低線量被曝が、がん化をはじめさまざまな異常疾病を誘引することが多方面から立証されています。

その核心の理論が「ペトカウ効果」です。放影研の山下俊一氏らの言説、文科省や厚労省の「暫定基準値」、原発推進勢力の「安全神話」の「似非根拠」を科学的に暴いて批判するという、これから長期にわたる民衆のいのちと健康を守る闘いはすでにはじまっています。

●ふくしま集団疎開裁判:記者会見要旨
http://1am.sakura.ne.jp/Nuclear/110624PressRelease.pdf

これから予想される多くの訴訟のためにも、このような低線量被曝、内部被曝の科学的な機制を医師、司法、行政の関係者のみならず、私たち一般の人々もその知見を共有しなければならない時代に入ったようです。

ここでは「ペトカウ効果」について、その基本をいくつかの引用文によって紹介したいと思います。(すでにご存知の方も多いと思いますが、参考にしていただければ幸いです。)


まずこの数字を見ていただきたい。

影 響       ICRP発生数      ECRR発生数
ガン死      1,173,606    61,619,512
全ガン      2,350,000   123,239,024
小児死亡            0     1,600,000
胎児死亡            0     1,880,000
生活の質の喪失        0            10%
(出典:ECRR2003年勧告)
ICRP:国際放射線防護委員会
ECRR:欧州放射線リスク委員会

この表は、低線量放射線の影響を史上初めて提唱したスチュワート(初代委員長)を筆頭に、本書に登場する低線量放射線問題と向き合ってきたブルラコーワ、バーテル、スターングラス、グールド、マンガーノらも名を連ねている欧州放射線リスク委員会(ECRR)の2003年報告のものです。


表を紹介した上記新刊訳者の竹野内真理さんは、「まず、この表を見て驚くのが、全世界で今までに核開発のために117万人ものガン死者、235万人という夥しい数のガン発生をICRP自らが認めているところである。保守的な数値でも十分に恐るべき数値であり、ゴフマンの、「自分も含め、低線量放射線のリスクを知っていた科学者たちは、ニュールンベルグのような裁判にかけられるに値する」という表現が、だいそれたものと思えなくなる数値である。」と述べ、もっと驚くことは、「欧州放射線リスク委員会(ECRR)の評価数値では、左のICRPの数値のそれぞれ60倍近くとなっている。

 ちなみに今回の福島原発事故による今後50年間の200km圏内のガンの過剰発生数は、ICRPの予測で約6,000人、ECRRが約41万7000人(!)となっている。今回も60倍以上の差があるのだが、それにしても、なんと恐ろしい数字なのだろう。」と「あとがき」に書いています。


1、低線量被曝研究の歴史―肥田舜太郎上記新刊「訳者あとがき」より

『1975年の「核兵器全面禁止国連請願」に参加した私は、ニューヨークでピッツバーグ大学のスターングラス教授から、広島・長崎の被爆者に多発している病態不明の疾病は、大気圏核実験に参加して放射性降下物(以下、「死の灰」という)からの放射線に内部被曝した被曝米兵の疾病と同じで、きのこ雲から降下した放射性物質が体内に入り、核分裂を起こして出す微量の放射線によって、内部被曝をしたために起こると教えられ、眼の前の霧が晴れた思いがしました。

 さらに教授から、アメリカの核実験の時期と乳幼児の死亡率のピークが見事に相関することを発見し、それが実験で飛び散った死の灰が牧草に入り、牧草を食べた牛のミルクを通じて乳幼児が被曝して死亡するという構図を教えられたのです。その理論的な根拠が「ペトカウ効果」でした。

 スターングラス教授は、1972年にアブラム・ペトカウが発表した「液体中にある生物組織に低線量の放射線を長時間照射すると、高線量の放射線を短時間照射するより細胞膜にはるかに大きな生物学的障害を発生させる」という「ペトカウ効果」を学んで、既存の理論では証明できなかった数多くの障害の原因が、核実験や原発事故などでばらまかれた放射性物質による被曝であることを分かりやすく説明してくれたのです。

そして、彼から新著の『低線量放射線(英文タイトルは下記)』を贈られて翻訳し、時事通信社から出版しました。『死に過ぎた赤ん坊』は放射能の内部被曝に関する、恐らく日本での最初の出版物だったと思います。』


2、アブラム・ペトカウとは―肥田舜太郎、鎌仲ひとみ『内部被曝の脅威』より

『放射線の人体に対する影響の医学的な解明を阻んでいた壁の一つは、放射線に対する細胞膜の強大な障壁だった。アブラム・ペトカウは1972年、マニトバにあるカナダ原子力委員会のホワイトシェル研究所で全くの偶然から、ノーベル賞に匹敵する次のような大発見をした。即ち、「液体の中に置かれた細胞は、高線量放射線による頻回の反復放射よりも、低線量放射線を長時間放射することによって容易に細胞膜を破壊できる」ことを実験で確かめたのである。

ペトカウは牛の脳から抽出した燐脂質でつくった細胞膜モデルに放射線を照射して、どのくらいの線量で膜を破壊できるかの実験をしていた。エックス線の大装置から15.6シーベルト/分の放射線を58時間、全量35シーベルトを照射してようやく細胞膜を破壊することができた。

ところが実験を繰り返すうち、誤って試験材料を少量の放射性ナトリウム22が混じった水の中に落としてしまった。燐脂質の膜は0.00001シーベルト/分の放射を受け、全量0.007シーベルトを12分間被曝して破壊されてしまった。彼は何度も同じ実験を繰り返してその都度、同じ結果を得た。そして、放射時間を長く延ばせば延ばすほど、細胞膜破壊に必要な放射線量が少なくて済むことを確かめた。

こうして、「長時間、低線量放射線を放射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」ことが、確かな根拠を持って証明されたのである。これが、これまでの考え方を180度転換させた「ペトカウ効果」と呼ばれる学説である。


人体の細胞は全て体液という液体に包まれている。体内で放射されるアルファ線、ベータ線などの低線量放射線は体液中に浮遊する酸素分子に衝突して、電気を帯びた活性酸素に変化させる。荷電して有害になった活性酸素は、電気的エネルギーで、内部を守っている細胞膜を破壊し、大きな穴を開ける。

その穴から放射線分子が細胞内に飛び込み、細胞内で行われている新陳代謝を混乱させ、細胞核の中にある遺伝子に傷をつける。遺伝子を傷つけられた細胞が死ねば何事も起こらないが、生き延びると細胞は分裂して、同じところに同じ傷を持つ細胞が新しく生まれる。分裂は繰り返され、内臓組織は細胞がたえず生まれ変わって生き続けるが、傷もそのまま受け継がれ、何かの機会に突然変異を起こす。細胞が内臓、諸臓器を構成する体細胞なら白血病、癌、血液疾患などの重篤な慢性疾患を起こして死に至らしめる。

また、生殖に関わる細胞なら代々、子孫の細胞に傷が受け継がれ、何代目かの子孫に障害を発生させる。これがペトカウ効果説に導かれた低線量放射線の内部被曝の実相である。』


『グールドはコンピューターを駆使して、増加している1319郡に共通する(乳がんの)増加要因を探求し、それが郡の所在地と原子炉の距離に相関していることを発見した。即ち、原子炉から100マイル以内にある郡では乳癌死者数が明らかに増加し、以遠にある郡では横ばい、または減少していたのである。乳癌死者数の地域差を左右していたのは、軍用、民間用を問わず、全米に散在する多数の各種原子炉から排出される低線量放射線だったのである。

 1996年にグールドはこの調査結果をニューヨークの「四つの壁と八つの窓(Four Walls Eight Windows)」という小さな出版社から 
『内部の敵』という書名で出版した。書名は、人間を体内からゆっくり破壊する低線量放射線という敵と、データを改ざんしてまでそれを隠蔽し続ける国内の敵を意味している。』


3、小出裕章さんの人形峠訴訟「意見書」より2005年
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/genpatuindex.html

『ここで、再度、確認しておきたいが、
放射線の物理的な性質そして生物の細胞の構造・機能からして、『どんなに微量であっても被曝による影響がある』のである。そのこと自体はすべての学者が認めることであり、科学的に議論の余地はない。物理学的なエネルギーのやり取りだけから判断すれば、体温を 1000分の 1 度 
しか高めない程度の極々微量のエネルギーであっても、そのエネルギーが放射線から受けるものである場合には、人間は死んでしまう。それほどわずかのエネルギーで生命体が大きな危険を受ける理由は、生命体を構成している分子結合のエネルギーレベルと放射線の持つエネルギーレベルが5桁も6桁も異なっているからである。

そのことは、放射線被曝が高線量であろうと低線量であろうと関係なく、個々の細胞あるいは DNA のレベルでいえば、同じ現象が起き 
ているのである。それが細胞死を引き起こしたり、組織の機能を失わせたりすれば急性障害となるし、そうならなければ、傷を受けた細胞がやがてガンなど晩発性障害の原因になるのである。

だからこそ、ICRP でさえ「生体防御機構は、低線量においてさえ、完全には効果的でないようなので、線量反応関係にしきい値を生じることはありそうにない」4)と述べているのである。このこともまた、長い放射線影響研究から導かれたのであって、先述の K・Z・モーガンさんは 
「私たちは当初、あるしきい値以上の被曝を受けなければ、人体の修復機構が細胞の損傷を修復すると考えていた。しかしその考え方が誤りであった」3)と述べている。ましてや最近になって、低線量での被曝では細胞の修復効果自体が作動しないというデータすらが現れてきた。』



4、「原爆症認定申請却下処分取消を求める原告側請求」から判決の核心部分(2008年)
http://www.geocities.jp/kyo_genbakusosyo/051209no10zyunbi_syomen.html

『広島長崎の経験に基づく高線量域から外挿した(機械的に当てはめた)線量反応関係(被曝線量の増加に応じて、被害が増加する相関性)に基づいて、フォールアウト(放射性降下物)や原子力施設の放射能漏れによる低線量の危険は極端に過小評価され無視することができるほど小さいと信じられてきた。しかし、医療被曝や原爆爆発のような高線量瞬間被曝の影響は、まず最初に、細胞中のDNAに向けられ、その傷害は酵素によって効果的に修復されるが、この過程は、極低線量での傷害に主として関与するフリーラジカル(遊離基)の間接的、免疫障害的な機序とは全く異なっている。このことはチェルノブイリ原発の事故後のミルク中のヨウ素131被曝による死亡率が、ヨウ素131のレベルが100pCi以下で急激に上昇しているのに、高線量レベルになると増加率が平坦になってしまうことから裏付られた。チェルノブイリの経験から言えば、この過程は最も感受性のある人々に対する低線量被曝の影響を1000分の1に過小評価していることを示している。


 チェルノブイリ事故以後の健康統計から計算すれば、低線量の線量反応曲線は、低線量域で急峻なカーブの立ち上がりを示す上方に凸の曲線又は対数曲線であり、線量反応関係の対数カーブは、ベトカウ博士らが行なった1971年の放射線誘発フリーラジカルの細胞膜傷害の実験
結果と一致する。低線量放射線による慢性的な被曝は、同時には、ほんのわずかなフリーラジカルが作られるだけであり、これらのフリーラジカルは血液細胞の細胞膜に非常に効率よく到達し、透過する。そして非常に少量の放射線の吸収にもかかわらず、免疫系全体の統合性に傷害を与える。それと対照的に、瞬間的で強い放射線被曝は、大量のフリーラジカルを生成し、そのため互いにぶつかり合って、無害な普通の酸素分子になってしまうため、かえって細胞膜への傷害は少ない。


 チャールズ・ワルドレンと共同研究者たちも、極めて低い線量の放射線の場合、高線量を用いた通常の方法やエックス線装置からの瞬間照射の場合よりも、200倍も効果的に突然変異が生じることを発見した(体内摂取されたベータ線による持続的な被曝は、外部からのエックス線瞬間被曝に比べて細胞膜への障害が千倍も強い。)彼らのデータは、線量反応曲線は直線であり、低線量の影響についても高線量のデータによる直線の延長線上で評価することができるとしてきた伝統的な化学的ドグマと対立している。


 ストロンチウム90は、化学的にはカルシウムに似ているため、成長すると乳幼児、小児、思春期の男女の骨髄の中に濃縮される。一度骨中に入ると、免疫担当細胞が作られる骨髄に対し、低線量で何年にもわたって放射線を照射し続ける。ストック博士と彼の協力者は、1968年、オスローがん病院でわずか10〜20mrad の少線量のエックス線がおそらくフリーラジカ 
ル酸素の産生を通じて骨髄造血細胞にはっきりした障害を作り出すことを初めて発見した。このことが、直接的には遺伝子を傷つけ、間接的にはがん細胞を見つけて殺す免疫の機能を弱め、骨肉種、白血病その他の悪性腫瘍の発育を導く。ストロンチウム90などによる体内のベータ線被曝で最も効率よく生成されるフリーラジカル酸素は、低比重コレステロールを酸化して動脈に沈着しやすくし血流を阻害して心臓発作を誘導すると考えられており、発がん性と同様に冠動脈性心疾患の一要因なのかもしれない。』


5、再びペトカウ効果とは?「死にいたる虚構―国家による低線量放射線の隠蔽」より

『放射能が白血病やガンの原因になることは周知だが、胎児期の遺伝子損傷や出生後、免疫系が弱って成長する世代にエイズの爆発的な発症がみられたり、脳性麻痺や精神障害も疑われるという。原発からのフォールアウト(放射性降下物)は風上・風下で大きく差がある上、巨大大陸多民族アメリカならでは、人種で摂取食物の違いがあってそれが死亡率に影響している。50年代の大気圏核実験や長らく伏せられた60年代原子炉事故の影響、そしてスリーマイルやチェルノブイリが大量放出した放射能が広域にわたり海や牧草地等を汚染してきた。巡り巡って人に戻る食物連鎖と生体濃縮のメカニズム。いのちは互いにつながりあって生命活動をしていて、長い年月連綿と化学反応は続いている。

 ゆっくりと自然環境から動植物内に入り込み、やがて都市部のマーケットで売られる食品を通して多くの人達の骨などに溜まるストロンチウム90等の内部被曝へのプロセスを追求していく。「外部被曝と内部被曝の違い」は衝撃的である。高線量の放射線を体の外から瞬時に浴びる外部被曝では放射線同士が打ち消し合うのに対して、低レベル放射能が食物や呼吸とともに体の中に取り込まれて細胞に溜まると、細胞は至近距離から継続して長時間放射線に直撃されることになり、そのダメージは1000倍だという。これらの免疫系を破壊する放射能は、感染に対する抵抗力低下を引き起こすが、妊婦では胎児を異物として拒絶する事になり、流産、未熟児、低体重児の増加、乳幼児死亡率の劇的増大となる。


 ペトカウ理論といって、これが今度の被爆者裁判に起用されたことで、「レントゲンや自然界にある程度の微量放射能値で無視できる」としてきたこれまでの安全基準は根本的に覆された。1000分の1甘い見積もりだった訳だ。チェルノブイリ以降20年間の放射能影響評価の表がある。ペトカウ理論を認めた立場と認めていない立場の「ガン死と全ガン」で52倍の差がある。そしてペトカウ理論の表に現れる「小児死亡160万人、胎児死亡188万人」は、認めていない立場の表では0、欄を作っていない=無視されてきたことがわかる。』


6、肥田舜太郎氏のことば―上記新刊「訳者あとがき」より

『アメリカに全面的に従属した日本政府が、被爆者の調査、研究を全くしなかったため、長期間、被爆者を苦しめ続けた原爆病と原爆死の実相が隠され、日本国民はもちろん、世界の国民、特に医師、医学者、核科学者などが核兵器の人体への影響を正しく認識し、理解する事を大きく損なってきた結果でした。
 広島・長崎原爆と被爆者の関係は、原発と電力会社職員、労働者及び周辺住民の関係にそのままあてはまる問題です。』


『このような大事故ではなくても、原発の平常の運転中に排気筒と排水溝から出される安全許容量の放射性物質が、実は人類存続にとって致命的な危険因子であることを、少なくない専門学者が警鐘を鳴らし始めています。放射線の内部被曝によって殺されるのは、核兵器だけでなく、原発などのすべての核施設でも同じなのです。』

(以上、引用終わり)
※1975年、肥田舜太郎氏がスターングラス教授から贈られて翻訳した著書の原文タイトルは、『Low Level Radiation』。


------------------------------------
パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
〒004-0841  札幌市清田区清田1-3-3-19
TEL/FAX : 011−882−0705
E-Mail : y_matsu29 at ybb.ne.jp
振込み口座:郵便振替 02700-8-75538 
------------------------------------ 



CML メーリングリストの案内