[CML 007244] Re: 「尖閣諸島領有問題をいかに解決すべきか」を読んで
毛利正道
mouri-m at joy.ocn.ne.jp
2011年 1月 16日 (日) 11:38:23 JST
半月城様 ご質問ありがとうございました。
貴兄の精緻な諸論考には頭が下がります。
その貴兄から質問を発していただいたということは、
いわば、相手にしていただいた、ということらしく、
恐縮しております。
さて、ご質問の件ですが、1896年9月の日本政府の所為が、
例えば、その地に軍事基地を設けたなど、従来の経過と
無関係に新たに占有したということであれば、芹田さんのご見解もわかりますが、
私が論説でまとめている下記年表の通りだとすれば、無主物の時代から当地を
占有し始めていた古賀からの再三の借用願に、1896年になって国家として応じた
という経過からすると、
そして、その間に閣議決定(これは厳格な定式のものであり、公表されていない
からといって、本件との関係で大幅に価値が弱いというものではないと思います)
があることならみて、
芹田さんがいうような、
無主地先占をした島嶼に対する支配なのか、割譲された地域に含まれる島嶼
に対する支配なのか、必ずしも分明にすることができないかもしれない。
というような不明確な先占ではないと思います。
先占といっても、流れの中でみるべきであって、
ある時期のことだけを取り出して解釈することは
法学として適切ではないと思います。
なお、芹田さんがいう、「先占の凍結」という語彙自体よく意味が分からないので、
そのご本を読んでさらに勉強してみたいとは思っています。
とりあえずのお答えです。
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毛利正道 mouri-m at joy.ocn.ne.jp
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年表
1885 1884年頃から尖閣列島の島々でアホウ鳥の羽毛・海産物の採集・販売などの事業を
営んでいた福岡県出身の古賀辰四郎から土地借用願が沖縄県に対して提出された
1885.9.6 清国の新聞「申報」が、台湾の東北の海島に最近日本人が日本の旗をかかげ、島を占
拠する勢い、と報じる
1885.9.20 沖縄県知事より政府に対し、尖閣諸島につき、沖縄県の所管として、国標をたてたいと
の上申がなされたが、政府は、清国から日本の中国進出の企図を疑われているこ
となどの理由から許可せず
1890.1.13 1893.11.2 この2度に亘り同様の上申がなされた
1895.1.14 93年11月の沖縄県の申請を認め、「尖閣諸島を沖縄県の所轄とし、標杭を打つことを
承認する」との閣議決定
1895.4.17 日清戦争講和条約で、台湾などを日本に割譲すると取り決める
ここで、中国側が、尖閣諸島に言及したとは議事録に記載されていない
以来、台湾省が日本国の領土として扱われることになった
1896.4 沖縄県が、尖閣諸島すべてを、八重山郡に編入した
9 政府が、古賀辰四郎の申請を認め、(久米赤島=大正島を除く)魚釣島・久場島・北小
島・南小島の30年間無償貸与を許可した
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Sent: Friday, January 14, 2011 9:52 PM
To: '市民のML'
Subject: [CML 007228] 「尖閣諸島領有問題をいかに解決すべきか」を読んで
半月城です。
毛利正道さんのサイト「尖閣諸島領有問題をいかに解決すべきか」をざっと拝見し
ました。研究が相当深化したように見受けられます。それに関連する質問ですが、毛
利さんは芹田健太郎の「先占の凍結」に関する懸念をどのように考えておられます
か?
毛利さんは、無主地先占に必要な実効的占有が古賀氏への島の貸与でなされたと考
えておられるようですが、この貸与はご承知のように1896年9月、すなわち台湾割譲
の後です。そのため、芹田健太郎は次のような懸念を表明しました。
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中国からの抗議はないものの、無主地先占をした島嶼に対する支配なのか、割譲さ
れた地域に含まれる島嶼に対する支配なのか、必ずしも分明にすることができないか
もしれない。
その意味では、敗戦の一九四五年(昭和二十年)八月十四日までの日本の行為はい
わば凍結され、実効的占有として意味ある行為は戦後のものに限られてしまうかもし
れない。
(芹田健太郎『日本の領土』中公叢書、2002、p.137)
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芹田の懸念については下記に書いたとおりです。
[CML 006275] 尖閣(釣魚)諸島の先占は一時凍結か
[CML 006458] Re: 尖閣(釣魚)諸島の領有権と国際法
もし、芹田の懸念が妥当であれば、日本の実効支配は沖縄返還後の1972年から始ま
ることになり、「尖閣諸島は日本の領土」という主張もあやうくなります。
毛利さんは法律家として「尖閣諸島は日本の領土」と書いておられるので、国際法
学者を説得できるだけの根拠をお持ちのことと思います。ご高見をお聞かせくださ
い。
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