[CML 009089] IK原発重要情報(3)
河内謙策
kenkawauchi at nifty.com
2011年 4月 18日 (月) 12:20:38 JST
IK原発重要情報(3)
私たちは、福島第一原発の事故をめぐる情報公開・情報追及の市民運動に役立つよ
う、「IK原発重要情報」を発信しています(この情報を重複して受け取られた方は失
礼をお許し下さい。転送・転載は自由です。)
弁護士 市川守弘、弁護士 河内謙策
(連絡先:kenkawauchi at nifty.com)
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福島第一原発の事故発生以来、放射能・放射線と人体の被害との関係が大きな問題
になり、政府やマスコミの発表で「放射能のレベルが低いから問題はない」とか「た
だちに健康に影響をあたえることはない」という説明が繰り返されてきました。この
ような説明に問題はないのでしょうか。
人体が放射線にさらされることを「被曝」(ひばく)といいますが、被曝の影響と
しては確定的影響と確率的影響の2種類があります。「確定的影響」とは、ある線量
を被曝すると特定の影響が確定的にあらわれるもので死亡や脱毛や白内障などがあり
ます。この影響では「しきい線量(しきい値・閾値)」が存在し、しきい線量(しき
い値)以下ではその影響が現れない、といわれています。「確率的影響」とは、放射
線に被曝しても影響の現れ方が確率的なもので、悪性腫瘍(がん)や遺伝的影響をさ
します。これらは被曝した人たちに必ず影響が現れるというものではなく、多数の人
が被曝したとき影響の現れる確率がその人たちの中で統計的に高まることを意味して
います(渡辺一夫・稲葉次郎編『放射能と人体』研成社27頁)。
問題は、確率的影響と呼ばれるこれらの障害について、それ以下であれば影響が生
じないという「しきい値」が存在するかどうか、ということです。「しきい値」が存
在しないというのであれば、「低レベルの放射能だから問題はない」とか「ただちに
健康に影響があるとはいえない」という考え方は誤りということになります。
米国科学アカデミーの委員会は2005年に次のように述べる報告を発表しています
(小出裕章『隠される原子力 核の真実』創史社14頁より引用)。
「利用できる生物学的、生物物理学的なデータを総合的に検討した結果、委員会は以
下の結論に達した。被爆のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい
値はない。最小限の被爆であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。こう
した仮定は『直線、しきい値なし』[LNT]モデルと呼ばれる」
国際放射線防護委員会(ICRP)も、ICRP勧告第26号(1977年)においてLNTモデル
を「人間の健康をまもるために放射線を管理するには最も合理的なモデルとして採用
した」「各国の国内規制もICRP勧告に準じていることが多い」といわれています、ま
たICRPは、1990年勧告においても、2007年勧告においても「LNTモデルを取り下げる
要素は無い」と判断しています(Wikipediaの「被曝」参照
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E6%9B%9D
日本の国内においては、先に引用した小出裕章氏や豊島耕一氏、原子力教育を考え
る会、政府系といわれる高度情報科学技術研究機構がLNTモデルを支持する立場から
の発言をしています。
[情報3-1] http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/
(この4月1日、4月15日の記事参照)
[情報3-2] http://www.nuketext.org/topics2.html
[情報3-3]
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-02-13
しかし、国際的にも国内的にもLNTモデルに対しては「人体の修復機能を無視して
いる」とか「むしろ少量の放射能は体に良いのだ」とか「放射線に関する知識を持た
ない人々を必要以上に怖れさせる結果を招いている」などの激しい批判がなされてい
ます。LNTモデルに批判的なサイトをいくつか紹介します。
[情報3-4] 大槻義彦氏のサイト:
http://ohtsuki-yoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-090a.html
[情報3-5] 放射線安全研究センターのサイト:
http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/lnt.html
[情報3-6] 金子正人氏の研究結果
http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/kaneko.pdf
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[私たちの見解]
私たちは、広島・長崎の原爆被爆者のデータによると「低線量になるにしたがって
単位線量あたりの被曝の危険度が高くなる傾向」が見られるということ(小出・前掲
書16頁)、チェルノブイリでは子供に甲状腺がんが増加しているということ、欧州放
射線リスク委員会の報告ではセラフィールド再処理施設の小児白血病の発生率が高い
ということ(Wikipediaの「被曝」)に注目したいと思います。このような重大な経
験的事実は、仮に現在の科学の水準で論理的に証明できないとしても切り捨てるべき
ではないのです。
また、「訴訟」の類推で物事を考えてみると、生命にかかわる問題であること、原
発等についてのデータは市民の側が持っていることは少ないことから、LNTモデルに
ついては、政府や原発推進勢力の側がLNTモデルは成り立たないという「証明責任」
を負うと考えられます。そうだとすれば、LNTモデルは成り立たないという証明は今
日において成功しているといえないので、私たちはLNTモデルを基礎にして考えるべ
きだということになります。
さらに環境問題などで言われる予防原則の考え方(環境に重大かつ不可逆的な影響
を及ぼす仮説上のおそれがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況で
も、規制措置を可能にする制度や考え方)からもLNTモデルが支持されるべきだとい
うことが導かれると思います(LNTモデルが科学的に正しいかどうかという問題を別
にしても、現実社会の判断基準としては予防原則にもとづきLNTモデルに基礎をおく
べきだということになります)。予防原則については、以下のサイトを参照してくだ
さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%88%E9%98%B2%E5%8E%9F%E5%89%87
いずれにしても、「低レベルの放射能だから問題は無い」とか「直ちに健康に影響
があるとはいえない」という言い方は、LNTモデルを無視するきわめて問題のある見
解で、脱原発勢力や市民運動は、この危険な言葉の意味に付き、理論「武装」をし
て、広範な人々に真実を訴える必要があるのではないでしょうか。
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以上
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