[CML 008818] 反戦の視点・その98−えっ、「ニッポンは強い国」!?
加賀谷いそみ
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2011年 4月 6日 (水) 02:05:39 JST
反戦の視点・その98
えっ、「ニッポンは強い国」!?
井上澄夫
テレビの「ニッポン、頑張れ」キャンペーンにはうんざりする。実に気持ちが
悪い。
「ニッポンは強い国」、「ニホンは一つのチームなんです」……。
「経済大国」という言い方はずっと前から聞いてきた。しかしバブルが弾(は
じ)け、リーマン・ショックで強烈な打撃を受けて以来、「経済大国」という表
現もずいぶん色あせた。GDP(国内総生産)比で中国に抜かれ、つづいてこの
東日本大震災と原発事故……か、と受け止める向きは多いだろう。
今回の大地震と原発事故は私たちの暮らしを直撃している。大震災が日本経済
に与える影響は規模の大きさと深刻さが予想されるだけで、いまだ全貌を現わし
ていない。東京電力福島第1原発事故による放射性物質の垂れ流しは、現在も被
害を拡大しつつある。汚染された大気から取り込まれる毒物が引き起こす内部被
爆による人体への影響や、海水の汚染が食物連鎖によってもたらす長期にわたる
今後の被害は、当面推測さえむずかしい。
わかっていることは、長期間にわたって私たちと近隣諸国の人たちの生命と生
活がおびやかされることだけである。私はGDP比で中国に追い抜かれたことな
ど、蚊の刺すほどにも痛痒を感じないが、この国と周辺諸国が原発事故によって
生存の危機に直面していることには思いを致さざるを得ない。
だが、それにしても、だ。これほどの深刻な原発事故を起こしておいて、いく
ら何でも「ニッポンは強い国」はないだろう。オイオイ、そんなことを言う君よ、
君の言うニッポンはいつから「強い国」になったんだと尋ねてみたい気がする。
それにそもそも「強い」とか「弱い」とかの基準は何なんだ。ニッポンは一体、
何に「強い国」なのだろう?
かつて1941(昭和16)年の第五期国定教科書、国民学校初等科(2年生)
修身「ヨイコドモ」(下)には、
日本 ヨイ 國 キヨイ 國 世界ニ 一ツノ 神ノ 國
日本 ヨイ 國 強イ 國 世界ニ カガヤク エライ 國
とあった。当時は現人神(あらひとがみ)である万世一系の天皇が統治する国だ
ったから、その意味で文部省はニッポンを「神ノ国」に仕立て上げたのだろう。
しかしだ、だからといって、ニッポンが「ヨイ国」とか「キヨイ国」であるとは
言えまい。まして「世界ニカガヤク エライ国」なんてのは、いかなる根拠もな
く、むやみにうぬぼれているだけの話である。
「神の国」で多くの人が思い出すのは森喜朗元首相だろう。2000年5月1
5日、森首相(当時)は神道政治連盟国会議員懇談会で「日本の国、まさに天皇
を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知し
ていただく、そのために我々(=神政連関係議員)が頑張って来た」とのべて激
しく厳しく批判されたが、発言は正真正銘のホンネであるから、彼は発言を撤回
していない。
それはともかく、「ニホンは一つのチームなんです」にも驚く。知らなかった
なあ、私はいつ「日本チーム」のメンバーになったんだ。私はサッカーにほとん
ど関心がないから、発言しているプロサッカーの選手(? たぶん)は知らない。
サッカーの試合はチームを組まないとできないが、そんな話はスポーツだけのこ
とにしてほしい。私は「国民総動員チーム」のメンバーになる気はない。1億数
千万人の「チーム」に、勝手に、むりやり引きずり込むのはやめてもらいたい。
ところで、「ニッポンは強い国」は、ACジャパンの大震災関連広告「日本の
力を、信じてる」篇の一部である。
〈あなたはどんなときでもひとりじゃない。僕らが、みんながついています。
互いに譲り合い、助け合いながら、強く強く未来を信じて、今ひとつになるとき。
/ニッポンは強い国。長い道のりになるかもしれないけど、みんなでがんばれば
絶対に乗り越えられる。〉
ACジャパンは旧公共広告機構で約1200の企業・団体を正会員とし、「広
告の仕組みを社会貢献に生かす」ことを使命としているという。正会員には東電
も加わっているが、それだけではない。東電の西澤俊夫常務取締役はACジャパ
ンの最高議決機関である理事会70人のメンバーの一人である。つまり前代未聞
の原発事故を起こした当事者が「ニッポンは強い国」と私たちを鼓舞・激励して
いるのである。なんともグロテスクな話ではないか。
ここで歴史を振り返る。文部省が「日本 ヨイ 國 キヨイ 國……」という
コピーで子どもたちを洗脳し始めたのは1941年、つまり日本がアジア・太平
洋戦争を起こした年である。尋常小学校を国民学校と改称した国民学校令の公布
は同年の3月1日、施行は同年4月1日、対米英開戦は12月8日であるから、
まさに戦雲が暗くたちこめ、戦争の大拡大が予感される時期に、将来の「醜の御
楯」(しこのみたて、皇軍兵士)を錬成するコピーが必要になったのだ。
つまり挙国一致の「国民」的盛り上がりが必要になると、政府はアプリオリな
コピーを造り出して「国民」を扇動するのである。これは有無を言わせぬ強制措
置であるから、「ヨイコドモ」はニッポンがどうして「ヨイ国」なのか「ツヨイ
国」なのかなどを教師にたずねない。たずねない生徒が「ヨイコドモ」なのだか
ら。
今回の大震災についてもしきりに「国難」とか「国家の非常事態」が強調され
ている。そういう認識を共有しない者は「非国民」で「国民協同体的チーム」か
ら排除される。国民新党の亀井静香代表が3月28日、東日本大地震の被災者支
援などについて、「『軍政を敷く』くらいなことをやった方がいい」とのべたが、
彼のめざすところは関東大震災のときと同じく戒厳令発布による「不逞鮮人」と
「非国民」の排除である。彼は警察庁警備局の「極左事件」に関する初代統括責
任者だったから、被災者が菅政権の震災対策に不信感を抱き、やがてそれが反政
府運動に発展することをひたすら恐れているのである。
今回の大地震による被害の広がりと深刻さや原発事故による被害は人災であり、
その責任はまず何より政府と東電にあるが(もっと厳密に言えば、そこに日米の
原発メーカーと「原子力の平和利用」を推進してきた御用学者を加えるべきだ
が)、政府は責任追及を避けるため、全「国民」を「一つのチーム」にして被災
者救援と復興に連帯責任を負わせようとしている。「ニッポン、頑張れ」キャン
ペーンははっきりとその目論見に加担している。それにしても、年配者には懐か
しい(?)「ニッポンは強い国」というコピーの復活は、誰が思いついたものだ
ろうか。
「強い国」であるかないかに何のかかわりもなく、被災者は生きなければなら
ないし、それぞれが奮闘している。政府は「事態の深刻さと緊急性」を楯として
政党間の政治休戦をかろうじて実現しているが、今日・明日の食べ物や着る物、
住む家に困っている人たち、医薬品や治療や看護・介護を必要とする人たちには
何より一人ひとりに「生きる権利」がある。誰もが憲法第25条に基づいて、震
災から立ち直り、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を主張できるの
だ。
責任回避のために盛んに言われている「想定外」はまるで言い訳にならない。
「想定外」のことが起きたことについては、想定しなかった側に責任があるのだ。
大津波を起こした地下のマグマに責任があるはずもなく、マグニチュード9.0
の地震など「起こるはずはない」と高を括った政府に責任があるのだ。
雲隠れしてしまった東電の現在の社長より前の元社長たちは自分が社長だった
とき大事故が起きなかった幸運にひたすら感謝しているだろう。自民党の幹部は
政権交代「後」にこうなったことにほっと胸をなで下ろしているに違いない。
「あとは菅民主党さんのお手並み拝見」というところだが、復興利権には何とし
てもありつきたいから、民主・自民の「大連立」を視野に入れ始めている。
それだけではない。大震災への対応として、米軍が空母2隻まで動員する「ト
モダチ作戦」を開始し、自衛隊は10万人規模の「災害派遣」をおこなっている。
それについては、近く執筆予定の次の「反戦の視点」で詳述する予定だが、ここ
では、「トモダチ作戦」について、米海兵隊が「沖縄の普天間飛行場に海兵隊が
いるからこそ迅速な人道支援が可能になった」というキャンペーンを大々的に展
開していることに触れておきたい。沖縄駐留の米軍中枢は沖縄にとって「良き隣
人でありたい」といい続けてきた。その「良き隣人」が今や「トモダチ」にまで
進化した。今回の「トモダチ作戦」が、ケビン・メア元在沖米国総領事の「沖縄
の人はごまかしとゆすりの名人だ」という耳を疑う暴言がもたらした、沖縄をは
じめ全国の日本民衆の癒しがたい不信と憤激を払拭し、沖縄県民に辺野古(への
こ)新海兵隊基地建設を容認させることを狙って発動されたことは明らかだ。
「支援」を政治利用することが見え見えの醜悪な善意の押し売りである。
だが、これほどの災禍を政権の延命に利用したり、政権奪還の手段にしたがる
政治家に、私たちは自分たちの未来を委ねていいのか。自衛隊と一体化する米軍
再編をあくまで強要する米国政府との関係を、この際、全面的に一変させるべき
ではないだろうか。
根本的な世直しが必要だ。全原発を廃棄し核燃料再処理工場を解体すべきは当
然だが、問題はエネルギー政策にとどまらない。今の政治のありかた、そして私
たちの暮らしのありようを根本的に見直し、まったく別の次元と文脈で問題を整
理し、原理的な世直しを構想すべきである。
今は、それが可能な、死活的に重要な分岐点である。
※ いのうえすみお 北限のジュゴンを見守る会、沖縄・一坪反戦地主会関東ブ
ロック
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