[CML 005713] Re: 山崎 淑子さん Re: 小野洋子の言葉

hagitani ryo liangroo at yahoo.co.jp
2010年 9月 22日 (水) 19:49:01 JST


 田口様

 脱線対話におつきあいいただき、ありがとうございます。
 そろそろ管理人からイエローカードが出るかもしれませんね。
 ここらへんで締めくくりたいと思います。


 「日本式」を人に勧めるのはご自由にどうぞ。

 ほとんどの人はそれに賛成はしないでしょう。

 その場合考えられる理由は次の通りです。

 イ) ヘボン式がこれだけ世界中に広まっているのにそれを変えるのは大変な
コストがかかります。
    そのわりに得るものがありません。

    もし、今のようにヘボン式表記の日本語が世界に広まっているのでなく
て、これから訓令式とヘボン式のどちらにするか決めようとでもいうの でした
ら、訓令式が支持されてもかまいませんが、現実は明らかにヘボン式の天下です。
 
    しかも、問題になっているのは、次の表記だけです。
    シ チ ツ ジ フ シャ シュ ショ ジャ ジュ ジョ
    これ以外の点では、訓令式と変わりありません。

    田口さんが、ヘボン式のshi chi tsu ji fu sha shu sho ja ju jo と
いう表記に否定的な理由は、これが英語圏の表記法だということです。

    世界のいろんな国でどんなローマ字表記をしているかは、原語入りの地
図でいろんな国の地名を見るとか、共同通信の世界年鑑で、巻末の世界 各国の
閣僚名簿などを見ると、見当がつきます。『英語固有名詞発音辞典』(三省堂)
という辞書も役に立ちます。英語とついていますが、英語圏以外 の固有名詞も
現地音の表記も入れて採録されています(不正確な記述もありますが)

    上記の5つの表記が英語圏の綴りに合っていることはたしかですが、問
題は、それらが、ほかの言語圏でどうなるかです。
   
    これらの中で、英語圏以外で読み間違えられそうなのは、ji とchiだ
けでしょう。しかし、jでジャ行音を表すのは、非常に広く見られ ることで
す。chiも、フランスならシ、イタリアならキとなりますが、大問題にはならな
いのです。
    
    翻って、愛知県をAichi などと書くと、英語圏の人間ならエイチーとで
読むのではないでしょうか。英語の綴りでは、aiはエイと読むのが原則です。フ
ランス語ならエですから、愛知 はエシ、大丸はデマリューと読みます。
    日本酒が国際的に知られたいまでこそ、Sakeと書けばサケと読んでくれ
る人が多くなりましたが、これだって、アメリカの田舎者なんかが 読めばセイ
ク、あるいはセイキーとでもなるはずです。丸の内をMarunouchiと書けばマラ
ナゥチと読む連中ですから。レーガン大統 領などは、大統領になるまでは一般
にリーガンだと思われてましたね。英語式なんて、あるんだかないんだかわかり
ません。

    ヘボン式というのは、平凡式です。特に英語本位ではなく、ローマ字が
普及している国で一般的に認められるような綴りを採用しているので す。勝手
に英語本位のものを思いついて外国に押しつけても支持されないということくら
いは、昔のアメリカ人は考えたと思います(ルース・ベネディ クトが太平洋戦
争のとき米軍のために行った調査が元になって出来た『菊と刀』が、その後ずっ
と日本論の古典の地位を保っている例を見ればわかるよ うに、日本を攻略した
ころのアメリカは、イラクを侵略しているアメリカよりは、はるかに物事をわき
まえていたのです。そういう彼らが持ち込んでき たのが、コカコーラとジーパ
ンとジャズ、ロック、自動車、電気製品、コンピュータ、映画・・・。私たち
は、いやでも半ばアメリカ人なのです。さり とて自殺もできますまい(^^)。


 ロ) 日本人には自国の表記法が確立しているのですから、ローマ字は日本人
どうしの間では無用です。ローマ字にするのは、外国人のためです。

  その外国人は、言うまでもなく、いろんな国の人がいますが、すでに英語に
慣れています。でないと、飛行機にも乗れないし、コンピュータも使え なくな
る恐れがあります。
  
  したがって、ヘボン式の日本語なら、予備知識がなくとも読み方の見当がつ
くが、訓令式だと、あらかじめ知らないと、変な発音になって、日本人 をまご
つかせるかもしれません。

  ローマ字書きした日本語を読むために、わざわざ日本独自の綴りの規則を覚
えるというのは、余計な負担です。

 
ハ) 英語式の綴りでなければいいのでしょうか?

  なんで、そこまでローマ字化に固執するのでしょう?

  所詮ローマ字は西洋人の字にすぎません。

  ローマ字には、音節の区切りが示せないという欠点があります。
  たとえば、Hanon (ハノン。正式にはアノンですが、日本ではドイツ音楽
偏重のせいでハノンで通っている)を、ハンオンと読んだ人がいま すが、まち
がいだとは言い切れません。 ジョン・レノンをジョン・レンノンと読んでも、
おかしくありません。パッヘルベルのCanonをカンオンなどと読むと、宗派がち
がうんじゃないか と思いますけれども、それがでたらめとは言えますまい。間
違える人が悪いのではなくて、文字に欠陥があるのですよ。そうでしょ?
 私は、こういうシステムを押しつけておいて、それに適応できない人間をコケ
にするような、倒錯した傾向が大嫌いなのですよ。おわかりになると思 いますが。

  それでもローマ字を使おうというのは、西洋中心主義のそしりを免れないで
しょう。
  田口さんが西洋中心主義とは、ずいぶん皮肉なことですが、私が悪意でそう
決めつけてるわけではない(^^)。

  ローマ字恐るべし。いや、アルファベットの起こりはフェニキアですから、
レバノン人カルロス・ゴーンなどのほうが、よっぽど恐ろしいけれども (あん
なやつ、大嫌いなんでね)。

  東洋(インド以東)の諸言語は、インドのデーヴァナーガリー文字、ビルマ
文字、カンボジアのクメール文字、タイのシャム文字、漢字、ハング ル、日本
のかな、と、多くが音節を明示できるシステムです。たぶん古代から行き来が
あって、文字というのはそういうもんだと思っていたんでしょ う。網野善彦も
そう言いそうです。ローマ字を用いるベトナム語でさえ、音節ごとに区切って書
いているくらいです。

  このなかでも特に優れていると思うのはハングルですが、もうちょっと手を
加えて表現できる音の種類を増やさないと、万国共通の文字にはできな いで
しょう。

  それに、アジアの中でどれかの言語を国際語にするということは、まずあり
えません。

  現にインドやフィリピンでは英語が公用語です。
  東洋語同士だと、どうしてもヘゲモニー争いになってしまいます。

  神の前には万人平等であるように、英語の前には東洋人、アフリカ人同士が
平等なのです。
  勝手に国際語になりやがって、と反感をもつのはご自由ですが、ああいうも
のが存在するのにも、それなりの意味と役割はあるのです。

 

 ニ) これでもやはり、ヘボン式はやめて訓令式にすべきだと思いますか?

  アジアのいろんな国の人たちに、そんなことを話したら、「ああなるほど
ね」と言って、ちょっと笑顔を見せて(ことによったら首をすくめて)、 たぶ
ん別の話に話題を転じてしま うでしょうね。

  彼らはたぶん、公用語は英語でいい、と言うでしょう。

  属国などと言いますが、一度も属国になったことがないからこそ、周囲の近
隣諸国を見下した横柄な態度をとってきた日本の国民が、そんなことを 言 うの
はおこがましくないでしょうか(もちろんこれは一般論としてで、私が田口さん
が近隣の国の人を見下すような、いやなニッポンジンではないと思っていま す
けどね)。

  植民地、属国にされた国の人たちが、自分たちの文字を守ろうと言うのは、
日本人とはわけが違うと思います。
  日本人でも、沖縄と「内地」では、状況がまったく別でしょう。このことを
認めるのと、沖縄と連帯しようというのとは、矛盾するとでもいうので しょうか。
  私は、沖縄に行って、さあ、ローマ字を変えましょう、などと言う気には
まったくなれません。理由はすでに述べたとおりです。

  ホ) で、私としては、田口さんに平凡式をしいて採用せよと迫る気にもな
らないのです。
  日本語のローマ字表記には2通りあるんだよ、と言えば、それでいいのでは
ないでしょうか。
  漢字仮名交じりで、漢字も訓読みがあり、音読みも漢音、呉音、唐音、宋音
とあるのに比べれば、ローマ字表記に2流派あるなんて、ちょろいもん です。


  以上、長々と失礼しました。問題は些細なことにすぎませんが、私は、こう
いう議論に間々ありがちな、ナショナリズムの気配にあまり好感をもて ないの
です。アメリカ憎しの一念に凝り固まるが、じつは世界をアメリカと日本だけの
ように思い込む・・・

  

    


(2010/09/21 12:42), 田口 wrote:
> 萩谷様
>
>>  すると、大体のひとは「とにかく」と正確には発音しません。「といかく」
>> 「といがく」なんていうふうになってました。
>
>  それは私にも似た経験があります。日本語を熱心に
> 勉強していた或る米人女性が私に尋ねました。日本人は 「ひと」 と書いて
> 「しと」 と発音しますね、と。私は答え
> ました。「関東には『ひ』を『し』と発音する人がいます。
> しかし九州には『ひと』を『しと』と発音するシトはいません
> よ」。 自分がシトと発音したことに 言い終わってすぐに
> 気づいて自分で自分にびっくりしました。
>
>>  ca ce ci なんていう綴りは日本語と関係ありません。
>>  日本語ヘボン式でcがつかわれるはchだけです。
>>  日本語のどこにXが出てくるんですか?
>>  第一、日本語の表記にthなんて出てきません。
>
>  諸外国のローマ字は英語の発音には必ずしも合わせては
> いない、の例としてあげたのです。
>
>> そうは言っていません。
>> 英国人にとどまらず、多くの外国人ためです。
>
>  英語を母国語としない外国人のために、我が国を訪れる
> そういう外国人のために、日本語のローマ字はヘボン式に
> したほうがよいとお考えなのですね。
>  「ヘボン式のほうが正しい発音が分かりやすい」 と感じる
> 外国人はいることでしょう。そうじゃない外国人もいること
> でしょう。それぞれの割合は聞き取り調査をして統計を
> 取らないと分かりますまい。英語の発音と綴りを全く理解しない
> 外国人もおるでしょうし。
>  しかし私は百歩譲ってヘボン式を好む外国人が多いと
> しましょう。それでも私は日本式を皆さんにお勧めします。
>  日本式ローマ字を読めない外国人がいたらその都度
> 「我が国ではこう発音するんですよ」 と教えてあげていいじゃ
> ないですか。そこの不便は小さいものです、もう一方の不便に
> 比べれば。
>  もう一方の不便とは、日本国住民の精神的独立を邪魔する
> 不便です。日本式ローマ字は日本の独立の象徴であると私は
> 考えます。
>  あいうえお表に合わせて日本人が自ら日本式ローマ字を
> 作った。一方ひとりの米人が自分と自国の都合に合わせて
> ヘボン式を作った。ここで日本人皆がヘボン式こと英語式を
> 用いたら独立の気概がそがれます。属国になっていることさえ
> 見えなくなるかもしれない。
>  煙草で例えれば、禁煙を完成さえるために身の回りの煙草を
> 全部 捨ててしまいましょう。「煙草は吸わない。ただ置いている
> だけだ」。 これでは信用が得られません。吸うきっかけにいつ
> なるかもしれない。
>  煙草を吸うのは個人の自由です。それでも私は完全禁煙を
> 勧めます。ヘボン式を使うのは自由です。それでも私は日本式を
> 勧めます。  田口
>
>
>
>


--------------------------------------
Get the new Internet Explorer 8 optimized for Yahoo! JAPAN
http://pr.mail.yahoo.co.jp/ie8/


CML メーリングリストの案内