[CML 006024] 日米軍事演習で「尖閣奪還作戦」という報道の真偽について

higashimoto takashi taka.h77 at basil.ocn.ne.jp
2010年 10月 17日 (日) 20:57:31 JST


以下、地元MLに流した標題に関する私見です。こちらにも問題意識を共有するため配信させていた
だこうと思います。

産経新聞の2010年10月3日付の報道、すなわち来月11月のオバマ米大統領の来日直後に大分・
日出生台演習場で作戦名「尖閣奪還作戦」と名づけられた同演習場を尖閣諸島に見立てた米海軍と
海上自衛隊合同の日米軍事演習が実施されることが明らかになった、という報道をめぐって本MLに
おいて何人かの方々から懸念が表明されています。また、同報道の真偽をめぐってうそか真実か、と
先日の「大分と沖縄を結ぶ会(仮称)」設立準備会主催の金城実さんの講演会の質疑応答の席では
少しばかりの議論にもなっていました。私も同記事の信憑性についてはいくつかの疑問点があるので
すが、まずは同紙のくだんの記事を確認したいと思います。

くだんの産経新聞の記事は下記のようなものでした。

(1)日米軍事演習で「尖閣奪還作戦」 中国の不法占拠想定(産経新聞 2010年10月3日)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101003/plc1010031124004-n1.htm
要旨:
「【ワシントン=佐々木類】日米両防衛当局が、11月のオバマ米大統領の来日直後から、米海軍と
海上自衛隊を中心に空母ジョージ・ワシントンも参加しての大規模な統合演習を実施することが明
らかになった。作戦の柱は、沖縄・尖閣諸島近海での中国漁船衝突事件を受けた「尖閣奪還作戦」。
大統領来日のタイミングに合わせ統合演習を実施することにより、強固な日米同盟を国際社会に
印象付け、東シナ海での活動を活発化させる中国軍を牽制(けんせい)する狙いがある。/日米統
合演習は2004年11月に中国軍の潜水艦が沖縄県石垣島の領海を侵犯して以来、不定期に実
施されている。複数の日米関係筋によると、今回は、中国軍が尖閣諸島を不法占拠する可能性を
より明確化し同島の奪還に力点を置いた。(略)演習は大分・日出生台(ひじゅうだい)演習場を尖
閣諸島に見立てて実施するが、豊後水道が手狭なため、対潜水艦、洋上作戦は東シナ海で行う。
(後略)」 

(2)日米「尖閣奪還」演習 強固な同盟 中国に明示(産経新聞 2010年10月3日)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101003/plc1010031244007-n1.htm
要旨:
「【ワシントン=佐々木類】日米が中国軍の尖閣諸島占領とその奪還を想定した統合軍事演習を
実施するのは、中国漁船衝突事件により、東シナ海での制海権を握ろうという中国政府の意思が
改めて明確になったからにほかならない。/統合演習はこれまで、中国を刺激しないよう、敵と味
方を色で識別し、架空の「島嶼(とうしょ)敵前上陸訓練」などと称し実施されてきた。だが、中国が
尖閣諸島の領有を前面に押し出してきた以上、「日米両国の意思が分かりやすい形で演習を実
施することが肝要だ」(防衛省筋)との結論に至った。(略)米国防総省筋も「日本は何もせずに
『米軍だけ血を流してください』というわけにはいかない」と指摘する。(略)一方、防衛省幹部は
「日本が、在沖縄米軍はいらないが、『有事のときは助けてください』ということでは、なかなか米
国人に理解してもらえない」とし、統合演習には在沖縄米軍の重要性を、沖縄県民をはじめ日本
国民に理解してもらう意味もあると説明している。」

私は産経新聞を購読していませんので実物を見ていませんが、インターネットで検索してみると(1)
は同紙一面トップ記事で、(2)は同紙三面掲載の関連記事ということのようです。かなり本格的な記
事の取り扱い方ですから、来月11月のオバマ米大統領の来日直後に日出生台演習場などでかな
り大掛かりな日米軍事演習が予定されていることだけは確かなことのように思います(そこまでこの
報道について産経新聞を疑う理由はないように思います)。

しかし、同紙には、「日米両防衛当局が、11月のオバマ米大統領の来日直後から、米海軍と海上
自衛隊を中心に空母ジョージ・ワシントンも参加しての大規模な統合演習を実施することが明らか
になった」「演習は大分・日出生台(ひじゅうだい)演習場を尖閣諸島に見立てて実施するが、豊後
水道が手狭なため、対潜水艦、洋上作戦は東シナ海で行う」などと断定的に書かれていますが、同
記事には下記のようないくつかの疑問があります。

第1の疑問は、尖閣列島沖漁船衝突事件が発生したまさにその翌日に米中軍事交流についての
米中協議を始め(共同通信2010年9月10日付)、また同22日には国防省の代表が訪中することを
発表した米国政府の姿勢からも読み取ることができると思うのですが、米国には今回の事件を契
機にして中国と軍事的に事を構える意志はまったくないとみられます。むしろ米国は今回の事件に
関しては日中間のソフト・ランディングを望んでいたと見るべきでしょう(「日中関係への視点(2)−
中国漁船問題とアメリカ−」浅井基文 2010年9月28日付)。その米国政府がこの時期に「尖閣奪
還作戦」などという中国を不必要に刺激するような作戦名をあえてつけた日米軍事演習を行おうと
するだろうか、というものです。「尖閣奪還作戦」という作戦名は日本の防衛省幹部の腹案か、ある
いは産経新聞記者、もしくは同編集部の意図的な創作と見るべきではないか。

第2の疑問は、上記(1)(2)の記事ともワシントン発の記事になっており、また記事中にも「複数の
日米関係筋によると」「米国防総省筋も」という表現も見られるものの、情報のソースは米国発のも
のというよりも日本の防衛省発と見た方がよいのではないか、というものです。日本の防衛省筋の
幹部の発言が具体的なのに対して、米政府筋の発言は抽象的な印象を持ちます。

上記のような少なくない疑問があるものの、私はやはり来月11月のオバマ米大統領の来日直後
に日出生台演習場などでかなり大掛かりな日米軍事演習が予定されていることだけは確かなこと
のように思います。その理由は、産経新聞の「日米軍事演習で『尖閣奪還作戦』 中国の不法占
拠想定」という報道は、防衛省が中国の脅威を理由に島嶼防衛強化の方針を掲げ、来年度の概
算要求に先島地域への部隊配備に向けた調査費を盛り込んだなどと伝える下記の一連の報道と
符合するところも多いからです。

■防衛省概算、ミサイル部隊強化 先島陸自配備で調査費(琉球新報 2010年9月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-167065-storytopic-3.html
「防衛省の2011年度概算要求では、(略)先島への部隊配備に向けた調査費を盛り込んだ。第
15旅団(那覇)で離島派遣のため偵察部隊の強化など人員増の予算も求めた。(略)先島地域
は「宮古島のレーダーサイトがあるだけで防衛上の空白がある」として、陸自の部隊配備のため
の調査費は3千万円。空自は、現在那覇基地にも配備されている移動警戒隊が先島地域に展
開運用できるように、同地域での電波障害の状況を調査するために5600万円を求めた。」

■陸自、先島で現地調査 災害派遣計画見直しの一環(沖縄タイムス 2010年9月30日)
https://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-09-30_10665/
「陸上自衛隊西部方面総監部(熊本県)の隊員らが26日から、宮古や石垣など南西諸島の主要
な島を現地調査していることが29日、分かった。(略)防衛省は、中国軍の活発な活動を念頭に
島嶼(とうしょ)防衛強化の方針を掲げており、来年度予算概算要求では先島へ陸自部隊配備を
検討する調査費を盛り込んだ。同省側は今回の現地調査について「部隊設置を前提にしていな
い」としている。」

■「思いやり」増額要求 米、外相会談で非公式に(琉球新報 2010年10月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-168241-storytopic-3.html
「会談で前原誠司外相は、中国漁船衝突事件による対中関係の緊張により、在沖米軍基地の
必要性に関する国民の理解が深まっていると説明した。(略)米政府筋によると、前原外相は
「中国をけん制するための在日米軍の抑止力と沖縄の基地の地理的重要性はよく理解してい
る」と協力的姿勢を示したという。」

さらに民主党内の右翼系議員を中心とした同党の中堅・若手の国会議員有志らによる「尖閣
周辺で日米共同軍事演習を」求める下記のような「建白書」提出の動きとも連動します。

■【中国人船長釈放】「尖閣周辺で日米共同軍事演習を」 民主党の長島前防衛政務官ら43
人が「建白書」(産経新聞 2010年9月27日)
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100927/stt1009272233006-n1.htm

産経新聞のくだんの記事は、そうした防衛省や民主党、自民党を含む右翼系議員の動きとも
連動した中国バッシングの世論を高めるための情報操作、誘導記事の可能性が高いのでは
ないか、というのが私の判断です。

そしていま、私たちに求められているのは、下記のような冷静な判断だろうと思います。

■先島陸自配備 中国脅威論大いに疑問(琉球新報社説 2010年7月21日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-165245-storytopic-11.html

「防衛省は宮古島や石垣島に陸上自衛隊の国境警備部隊を、与那国島に陸自の沿岸監視
部隊を配備する方向で検討している。/東アジアの経済統合が加速している。中国と台湾は
先日、経済協力枠組み協定(ECFA)に調印した。中台の経済的な相互依存関係が緊密にな
る中で、武力衝突はほとんどあり得なくなりつつある。/防衛省はこの変化が、アジアの安全
保障環境に確実に変化をもたらすことを過小評価してはいまいか。/軍備増強を図る中国を、
日本の安全への「脅威」と明確に位置付けることには大いに疑問が残る。」

「そもそも宮古、八重山地域への直接的軍事侵攻は非現実的ではないか。/「島しょ警備(防
衛)」という言葉は、65年前の沖縄戦を連想させる。沖縄戦前に策定された「沿岸警備計画
設定上の基準」にその文言がある。沖縄を主要な警備地域として挙げ「住民の総力を結集し
て直接戦力化し軍と一体となり国土防衛に当たる」ことを求めた。/結局、島しょ防衛という発
想は、住民を巻き込んだ悲惨な地上戦という結果しかもたらさなかった。/軍は軍の論理でし
か動かない。存在し続けるためには、新たな存在理由を求めるものだ。/陸上自衛隊配備よ
り、アジアの近隣諸国との友好関係と信頼醸成に努めることの方が先決だろう。」

付記:
上記の産経新聞の報道が事実だとすれば地元大分では早急な対策が必要だと思いますし、
実際検討も始められようとしています。この件についてさらに情報をご存知の方はお知らせ
いただければ幸いに思います。


東本高志@大分
taka.h77 at basil.ocn.ne.jp
http://blogs.yahoo.co.jp/higashimototakashi


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