[CML 006269] 東本さんはなぜ間違えるのか(2) 「ウラをとらない」

maeda akira maeda at zokei.ac.jp
2010年 11月 1日 (月) 11:39:45 JST


前田 朗です。

11月1日

<1) ウラをとらない>

およそ信用性が低いとわかっている情報のウラをとらない。これが東本さんの基本的姿勢であり、投稿の主要な特徴です。事実に関しても、法律論に関しても、確認しようとしません。

ずっと以前から続いている傾向ですが、最新の事例は既に指摘した「wiki情報」
です。10月28日に、東本さんは次のように書いています。

<さらに最高裁には「昭和三十年代の暴力団紛争において、犯罪実行に自ら加わ
らない暴力団の組長など『黒幕』処罰を目的として確立された共謀共同正犯とい
う判例理論があ」るが、半世紀後の今日にわたるまで、そのほとんどが暴力団に
のみ適用されてきている」(wiki「共謀罪」)という事情もあります。>

これに対して、私は、10月29日に、次のように批判しました。

<東本さんが無責任なのは、インチキ情報ばかり並べ立てて、それを根拠に他人
を非難していることです。そもそも間違いだらけで有名なwiki情報を根拠の一つ
にして他人を非難するなど、無責任としか言いようがありません。せいぜい、
「wikiにはこう書いてありますけど、違うでしょうか」と書くのが常識人です。>

誤りを認めた東本さんですが、10月29日に、次のように言い訳をしています。

<法律の専門家ではない私が「共謀に関する判例」をいちいち周知しているはず
もなく、また今回の論争でそのことについて新たに調べる必要性も感じません。
とりあえずウィキペディアの記事を示しておけば足りることです。
 そのウィキペディアには1958年の最高裁判決とは練馬事件のことを指すこ
と。また、最高裁第三小法廷2007年11月14日決定の「ドラム缶不法投棄
事件」の判決の言及もあります(wiki『共謀共同正犯』)。私はそうした言及も
読んで知っていますが、もう一方でのウィキペディアの言及、「(最高裁には)
共謀共同正犯という判例理論があ」るが、「半世紀後の今日にわたるまで、その
ほとんどが暴力団にのみ適用されてきている」(wiki『共謀罪』)は私の人並み
にはある法律知識にも合致する認識です。「ほとんど」かどうかについては上記
で述べたとおり私には確証はありませんが、その認識を引用してはいけないなど
という法はないでしょう。また、2007年の「ドラム缶不法投棄事件」の判例
などがあるというだけでは上記のウィキペディアの「ほとんど」という言及を否
定する理由にもならないでしょう。>

東本さんの文章の特徴がよく現れています。

第1に、wiki情報が、ネット上の辞書として有益であると同時に、しかし、その
記述には膨大な間違いが含まれていることは常識です。にもかかわらず、東本さ
んは確認もしないし、確認する必要もないと述べています。今後もwiki情報をう
のみにして議論するのでしょう。

第2に、法律の初歩の初歩を知らない。東本さんは、「共謀共同正犯の判例が暴
力団のみに適用されている」という主張を何度も繰り返しています。ドラム缶事
件だけでは理由にならないなどと主張しています。共謀共同正犯に関するリー
ディング・ケース(指導的判決)も、最新の重要判例であるドラム缶事件もある
のですから、wiki情報は間違いです。それを理解できないのは、<リーディン
グ・ケース>という言葉の意味さえわかっていないからです。

第3に、事実誤認の根底には、理論的無知があります。専門家でなくても、刑法
を学んだ人間(法学部2年生)なら、東本さんの文章を読んだ瞬間に、ただちに
「間違っている」とわかります。わからなければ失格です。3年生になれませ
ん。東本さんは刑法総論と刑法各論の違いをわかっていないのです。これは少し
説明をしておかなければなりません。

刑法総論――すべての犯罪に共通の成立要件を論じる領域(構成要件、行為、違法
性、責任、未遂、共犯、罪数、刑罰論)

刑法各論――個別の具体的な犯罪の成立要件を論じる領域(殺人罪、暴行罪、傷害
罪、窃盗罪、詐欺罪、横領罪・・・)

共謀共同正犯は、刑法総論の共犯に属する問題です。すべての犯罪に共通の成立
要件の議論です。その理論が「暴力団だけに適用されてきた」という主張は、法
律を学んだ者なら、即座に「そんなことがありうるのか?」という疑問を抱きま
す。もちろん、そんなことはありえないのです。いくら日本の検察と裁判所が常
識はずれでも、そんなことは絶対に起きません。裁判所自身が、共謀共同正犯論
を「犯罪の一般理論」としてつくり上げてきたのですから。

しかも、日本刑法は、実務においても、暴力団など特定の人に適用する理論では
なく、「行為」について適用する理論に立脚しています。一部の身分犯を除い
て、「犯罪者の属性」によって犯罪の成否を決することはタテマエ上禁止されて
います。「犯罪の実行行為」を行ったか否かが基準です。

東本さんは、都合が悪くなると「法律の専門家ではない」と言い訳をします。し
かし、過去の東本さんの投稿を見れば明らかなように、「法律の専門家」の領分
に介入し、発言し、専門家を批判し、時に無礼な罵倒を投げつけてきたではあり
ませんか。いちいち引用しません。みなさん、見ていますから、よくわかってい
る「公知の事実」です。

(東本さんなりの立場から、法律の専門家を批判するのは当然、自由です。法律
論が陥りがちな誤りを指摘し、その限界を指摘することは、専門家でなくても、
できることがよくあります。専門家でないからこそ見えることもあります。)

問題を元に戻しましょう。

東本さんは、誤りが多いことで知られる情報を、疑いもせず、うのみにして議論
を展開します。誤りが明白になっても、その方法を改めようとしません。ウラを
とることさえしない。事実についても、法律についても、二重三重に誤った知識
で議論を展開します。


誰でも同じ間違いを犯す可能性があります。もちろん、私も間違えます。わかっ
ていても、時に失敗しますね。

なお、東本さんがつねにウラをとらないと言っているのではありません。今回も
「読売新聞」記事についてはウラを取る努力をしています。しかし、たまたま
疑ったことについてはウラをとるが、疑わしいことで知られる情報のウラをとら
ないのでは、誤りを惹き起こす確率が高くなります。


おまけに、自分はウラをとらないのに、他人に対して、「根拠を示せ!」「説明
責任だ!」と執拗に要求するのも東本さんの基本的特徴です。

<2) 共謀と共謀共同正犯>

* 以下は余談です。お暇な方だけ、どうぞ。

さらに言えば、東本さんは、「共謀」と「共謀共同正犯」の関係を理解していま
せん。「法律の専門家ではない」と自ら述べているので、やむを得ないことでは
ありますが。

第1に、理論的に、両者は別物とされてきました。1960年代から70年代に
かけて、藤木英雄(東京大学教授)、大野平吉(専修大学教授)、下村康正(中
央大学教授)、西原春夫(早稲田大学教授)、夏目文雄(愛知大学教授、肩書き
はいずれも当時)らによる共謀共同正犯論争において何度も指摘されたように、
日本における共謀共同正犯は日本特有の論理とされたものであって、英米法にお
ける共謀conspiracyとは、異なる概念です。そのことを理解していない。もっと
も、これは仕方がないことです。専門研究者しか知らないことで、弁護士でも
知っている人は少ないくらいですから、東本さんが知らないのはやむをえません。

第2に、犯罪成立要件を構造論的に考えても、両者の差異は明らかです。「共謀
のみで成立する共謀罪」の共謀と、「共謀者の一部による実行行為を必要とする
共謀共同正犯」の共謀とは成立範囲が異なるのです。

共謀罪――共謀=犯罪成立

共謀共同正犯――共謀+実行行為=犯罪成立

この構造的差異から、一般的に言って、共謀共同正犯の場合は、実際に実行行為
に出ているのだから、それだけ共謀の認定が容易に行なわれることになります。
共謀罪の場合は、共謀だけで処罰するのですから、共謀の認定が厳密になります。

もっとも、共謀罪法案に対する反対運動の中で、私も含めて反対派は、共謀罪と
共謀共同正犯の差異は些細なものであり、むしろ共通点こそ重大事として、批判
をしたのです。

こういうことを東本さんが知らなくてもやむをえませんが。



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