[CML 004194] 口蹄疫・食品表示要請に見る消費者庁の限界(下)

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 5月 22日 (土) 11:47:34 JST


一方で消費者にとっては複数機関が並立することにメリットもある。消費者にとっては相談先が多いことを意味する。一つの機関では相手にされなくても、別の機関で対応してくれる可能性がある。

これは記者自身が不動産トラブルで身をもって経験したことである。記者は東急不動産からマンションを購入したが、不利益事実(隣地建て替えにより日照が阻害されることなど)が説明されなかったことが判明したため、売買契約を取り消した(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。
この問題に際して、多くの行政機関に相談や申し立てをした。主な機関を挙げると以下の通りである。
http://news.livedoor.com/article/detail/4779296/
http://www.pjnews.net/news/794/20100519_2
・国土交通省関東地方整備局建政部建設産業課:宅建業法の重要事項不告知について
・東京都都市整備局:宅建業法の重要事項不告知について
・公正取引委員会事務総局取引部景品表示監視室:不動産広告の虚偽について
・経済産業省関東経済産業局消費者相談室:マンションだまし売りについて
・総務省東京行政評価事務所:国土交通省による処分について
・東京都生活文化局:東京都消費生活条例違反について
・江東区都市整備部建築課:一級建築士資格を持たない無資格者が構造設計者になっていることについて
・江東区消費者センター:消費者契約法について

これらの中には記者にとって有益なものもあったし、残念ながら、時間の無駄に等しいものもあった。強調したいことは、複数の機関が存在していたからこそ、有益なところに行き着くことができ、東急不動産の問題を広げることができたという点である。もし一つしか機関がなければ、仮に、その機関でまともな対応がなされなければ、それで終わってしまう。

窓口の一元化が消費者にとって便利であることは事実である。しかし、その窓口が消費者の声を受け止めなければ、それで終わりというリスクがある。これが消費者行政を一元的に担当する消費者庁の創設によって、門戸が狭められ、反対に消費者軽視の方向に進みかねないと懸念する理由である。

上記の理由から消費者庁は、可能な限り消費者の声を行政に反映させないようにしたい立場にとっても内容によっては賛成できるものになる。近年、消費者問題が深刻さを増していることは事実である。これは企業が以前よりも悪質になったということを必ずしも意味しない。むしろ消費者の意識が高まった結果という面がある。インターネットのような情報インフラの発達も後押しした。この傾向は今後も強まりこそすれ、弱まることはない。好むと好まざるとに関わらず、行政への消費者の圧力も強まる。

そこで、行政が業者寄りであり続けるための言わば防波堤として、消費者庁を位置付けようとする発想が生まれてもおかしくない。従って現在の消費者庁に、そのような発想がないか注意する必要がある。結局のところ、新組織を創設することではなく、どのような組織であるかが問題となる。

ここで第2の行政が業者寄りの性格を有している点が関係してくる。現実問題として現行の省庁が業者寄りであるならば、消費者の味方というべき機関を創設することに一定の意義はある。しかし、消費者重視を政策として掲げるならば、現行の省庁の業者寄りの姿勢を改めることが先である。消費者行政を分担する全省庁に消費者重視の姿勢がないことが問題である。現行の省庁が業者寄りのままでは、消費者庁を新設しても上述の防波堤として機能するか、せいぜい政府内野党的な存在にしかならない。

そして今回の口蹄疫に関する要請では、消費者行政の一元化と消費者寄りの専門機関という消費者庁創設の2つの目的の矛盾が露呈した。消費者庁では食品表示に関する制度を一元的に担当する。それために口蹄疫に関する要請も消費者庁が行ったが、これは消費者保護よりも、風評被害から宮崎県の畜産農家を守ることが目的である。

消費者庁が一元的に担当する結果、業者保護も消費者庁で考えなければならない。消費者の利益と業者の利益は対立する面もあり、これまでの行政の体質を踏まえるならば消費者庁も業者寄りとなってしまう可能性がある。

やはり重要な点は消費者行政の中身である。行政機関を消費者重視の姿勢に変えていく必要がある。それは「消費者重視を念頭に仕事をするように」というような精神論では達成できない。官僚は業界団体や企業とは様々な形で交流しており、天下りという「人事交流」までしている。業者寄りになることは当然の帰結である。
消費者重視にするためには消費者や消費者団体が消費者行政に積極的に参加し、その声が反映される制度を構築していかなければならない。各種審議会では消費者関係の委員を増やす、消費者団体出身者を主要ポストに任命するなどの措置が望まれる。

消費者庁という一元化組織の新設は、行政を消費者重視にすることも、反対に消費者軽視に機能させることもできる。縦割り行政を解消し、消費者行政を一元化する機関を創設するというだけでは消費者は喜べない。口蹄疫という非常事態によって、早くも消費者庁の限界が見えてきた。【了】

林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
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