[CML 004175] 口蹄疫・食品表示要請に見る消費者庁の限界(上)

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 5月 20日 (木) 21:13:26 JST


【PJニュース 2010年5月19日】宮崎県で家畜伝染病・口蹄疫が拡大している。この問題について消費者庁は2010年5月17日、消費者に根拠のない不安を当たることがないよう、適切な表示を食品関連事業者に要請した。この要請から消費者庁の限界を見ることができる。

消費者庁作成文書「口蹄疫に関する不適切な表示について」では、口蹄疫にかかった家畜の肉や牛乳が市場に出回ることはなく、口蹄疫に感染した家畜の肉や牛乳を摂取しても人体に悪影響はないとする。その上で以下内容を要請した。この部分には下線が引かれており、特に強調されている。

「飲食店・小売店において「宮崎県産の牛肉は使用していません」との表示を行うなど、消費者に根拠の無い不安を与えることがないよう、適切な配慮をお願いします」
http://news.livedoor.com/article/detail/4777240/
http://www.pjnews.net/news/794/20100519_1
消費者庁が口蹄疫への不安を不必要に煽ることを戒め、正しい知識を啓蒙することは結構なことである。しかし、宮崎県産の牛肉不使用を不適切な表示とし、消費者に不安を与えると主張することは、消費者の権利保護に逆行する。

消費者にとって業者が食品の産地を表示することは好ましいことである。産地を表示すると売れなくなるからという理由から産地を隠すことは、消費者に対する裏切りである。消費者契約法に規定する不利益事実不告知に該当する可能性もある。

消費者行政の使命は、悪質な業者による虚偽説明や威圧で消費者が問題のある消費者が問題ある商品やサービスを購入してしまうことを防ぐことにある。消費者の購入意思決定に指図することではない。どの商品を購入し、どの商品を購入しないかは消費者の自由である。それ故に消費者が「宮崎県産の牛肉を食べたくない」と考え、宮崎県以外の産地の牛肉を求めることは消費者の自由な意思決定として尊重されなければならない。そのような消費者にとって宮崎県産不使用の表示は必要な情報である。

現時点での公式見解は、出荷済みの宮崎県産の食品の安全性に問題ないということになっている。しかし、それは現時点の公式見解であって、決して無謬ではない。それ故に宮崎県産を避ける消費者がいたとしても非合理と片付けることはできない。その考えを批判することはできるが、その考えを捨てるように強制はできない。消費者に不安を与えることを理由に消費者の求める表示をしないならば、「由らしむべし知らしむべからず」の発想であり、消費者行政の対極に位置する。

消費者行政とは別の視点に立つならば、宮崎県産食品への風評被害を防ぐということも一つの政策目標である。この点から風評被害を拡大しないように適切な表示を要請することには意味がある。しかし、それは消費者保護とは別の政策であり、消費者の知る権利と対立する可能性があるものである。それを消費者庁が要請するところに消費者庁の制度的な矛盾が存在する。

消費者庁設立の背景には、耐震強度偽装事件や食品偽装問題など消費者問題の続発があった。これら続発する消費者問題に対し、現行の行政が効果的に対応できておらず、それどころか被害を拡大させてしまっている面がある、という点が出発点である。要するに行政が消費者重視になっていないという問題意識があった。

日本の行政が消費者問題を軽視する理由には大きく2点ある。これらは相互に関係している。

第1に縦割り行政の弊害である。消費者行政は業務範囲が業界毎に区切られている複数の行政機関に分断されていた。経済産業省、農林水産省、厚生労働省、国土交通省、金融庁などである。このため、統一的な消費者行政が行われにくい。

第2に行政が業者寄り・業界寄りの性格を有している。明治時代は富国強兵、戦後は経済発展が日本政府の政策であり、産業の保護育成が使命であった。消費者問題においても消費者の立場よりも企業の論理を代弁する傾向は否定できない。

消費者庁は上記2点の解決を企図して設立された。消費者庁が消費者行政を一元的に担当することで、縦割り行政の弊害を解消する。また、消費者庁を消費者の立場を代弁できる行政機関とすることで、消費者重視の政策の実現を目指した。

しかし、消費者行政への関心の高まりの中で、消費者行政を一元化する新組織・消費者庁の設立だけが唯一の解決策と絶賛されていた訳ではなかった。むしろ行政機関の新設が、消費者重視の行政の実現につながることを疑問視する声も強かった。たとえば現行の消費者生活センターでも権限を与えれば同じ仕事は可能であると主張された。また、消費者庁は行政の消費者軽視を進める方向にも機能する危険があると指摘された。さらに消費者庁は役人の権限とポスト増大に資するだけになるとの悲観論もあった。

上記2点の問題意識に即しても、消費者庁が消費者重視の行政への唯一の解決策にはならない。

第1の縦割り行政の問題であるが、そもそも担当機関が複数あることが消費者にとって不利益であるか、という点を問題提起する。

消費者問題を扱う部署が複数ある弊害としては以下が考えられる。

1.消費者が、どの部署に行ったらいいか分からず、混乱する。

2.別の部署にたらい回しにされる危険がある。しかも両方の部署から、たらい回しにされて、結局、どの部署でも担当しないという状態になる危険もある。

部署Aでは「部署Bが処分しない以上、部署Aが処分する訳にはいかない」と説明する。しかし部署Bでも「部署Aが処分しない以上、部署Bが処分する訳にはいかない」と説明する。誰も判断しない無責任状態が正当化されかねない。

これらは複数機関並立の弊害である。よって消費者行政を一元化する消費者庁の創設によって解消できるならば、それは改善にはなる。しかし、一元化組織の創設は弊害解消のための正しい解決策ではない。

先ず1の点については、真に複数部署を設置することに意義があるならば、消費者が混乱しないように分かりやすい広報を徹底することで解決することが正道である。

次に2の点については根本的な問題は面倒な仕事をしたくないという公務員の無気力主義にある。複数部署の存在は正当化するための口実に使われているに過ぎない。担当者の体質が変わらない限り、一元化する組織が創設されたとしても別の理由を持ち出して消極的な姿勢を続けることになる。従って、一元的な組織を創設しただけでは根本的な解決にはならない。【つづく】

林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
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