[CML 004157] 『小沢一郎 覇者の履歴書 超権力者への道』の感想

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 5月 19日 (水) 20:37:18 JST


本書はジャーナリストが小沢一郎・現民主党幹事長を分析した書籍である。政治家を扱う書籍は多数存在するが、本書の特徴は心理学も動員して、幼少期からの小沢一郎の人格形成について丹念に分析している点がポイントである。

小沢一郎が田中角栄の影響を受けているとする指摘は多い。本書でも田中角栄の影響を述べるが、それにも増して父親・小沢佐重喜の影響を指摘する。それによって単なるミニ角栄では片付けられない小沢一郎の複雑さを明らかにする。
http://www.notaru.net/book/201005/0152
父子の直接的な触れ合いが乏しい中で、佐重喜は一郎の内面で理想化された存在であった。このような屈折した思いが小沢一郎に大きな影響を与えつつも、「政治家小沢佐重喜には政敵はあっても、人間小沢佐重喜には、一人の敵もなかった」(北山愛郎による追悼演説)と評された人間味ある政治家とは似ても似つかない政治家にした要因である。

本書は1994年に出版された『小沢一郎 覇者の履歴書』の加筆修正版である。当時は非自民連立政権が成立し、その立役者として小沢一郎が注目された時期であった。それから16年が経過し、様々な出来事があった。本書は小沢一郎の人格形成につながる過去のエピソードと、そこからの分析を維持しつつ、適宜新しい出来事を付加している。

たとえば小沢一郎は司法試験勉強をしていたが、合格することはなかった。これについて本書は「司法試験を受験だけで終わったことは、学問としての純粋な法律論を身につけたということでもあった」と評し、形式的なきらいがあるものの小沢一郎の法的な論理性の高さを説明付ける(174頁)。この傾向は西松建設献金事件における小沢一郎の検察批判にも通じるとする(176頁)。

現在の小沢一郎の言動も16年前に出版した書籍の分析で説明できることになる。この理由を本書は以下のように表現する。

「小沢には過去と現在の境はない。それ故に、過去の小沢を知れば知るほど、これまで見えなかった現在の、そして未来の小沢が見えてくるという意外さがある。」(37頁)

この文章は帯にも採用されており、小沢一郎という政治家の特徴を端的に示すフレーズになっている。しかし、よく考えれば、これは強調するほどの話ではない。およそ過去のない人間は存在しない。誰であれ人間の現在は過去からの積み重ねである。特に政治家は有権者から選挙後の数年間を託される人物である。過去から現在や未来が見えてこないような人物では、有権者は危なくて投票できない。

ところが、日本社会は過去を水に流すことを是とし、目の前の問題に飛びつくばかりで歴史性に欠ける傾向が強い。そのために本来ならば人間としても政治家としても当たり前な「過去と現在の境はない」ことが「意外」と扱われてしまう。そこに日本社会の異常性が浮かび上がる。かつて小沢一郎は「普通の国」を掲げたが、小沢一郎が多数の政治家の中で良くも悪くも際立っている理由は、彼が日本には珍しい「普通の政治家」だからとも言えるだろう。【林田力】

林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
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