[CML 004043] 『金正日最後の賭け』北朝鮮の冷静な分析

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 5月 10日 (月) 21:40:35 JST


本書(張誠{&著、吉崎英治訳、田原総一朗監修『金正日最後の賭け 宣戦布告か和平か』ランダムハウス講談社、2009年7月29日発行)は韓国の政治学者による金正日及び朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のドキュメントである。

北朝鮮は日本が未だに国交を正常化できていない唯一の近隣諸国であり、その動向は日本の安全保障上重要な関心事である。しかし、日本における北朝鮮についての言説は、あまりに感情的なものや、過度に脅威を強調するものが目立つ。これに対して、本書は等身大の北朝鮮を冷静に分析している。
http://www.janjanblog.com/archives/1899
たとえば北朝鮮の特殊性に注目する論者が多い中で、本書は北朝鮮と中国、ベトナムの共通性に着目する(180頁)。共にソ連崩壊後も政治的には社会主義国として残っている。これらの国は日本などの帝国主義国家の植民地支配を受け、人民が命がけで民族解放運動を起こした点で類似する。日帝支配の中で反帝国・反植民地主義に基盤を置く抵抗的民族主義意識が人民の間に浸透している。この点が簡単には崩壊しない北朝鮮の体制分析のポイントになる。

北朝鮮の核開発は北東アジアの安全を脅かすとして国際問題になっているが、現在の国際情勢下では北朝鮮にとって合理的な選択である。北朝鮮がアフガニスタンやイラクと異なり、アメリカから攻撃されないのは核のお蔭であると北朝鮮は考えている。加えて経済不振に苦しむ北朝鮮が通常兵器の維持拡大に資金を注ぎ込み続けることは困難である。核兵器は最新鋭の通常兵器の大量配備よりも相対的に安価である。そのため、核開発には北朝鮮の国防費を縮小する狙いもある(193頁)。

核開発は北朝鮮にとって合理性があるため、北朝鮮に核開発を放棄させる解決策として、本書は核兵器と同じレベルで体制の安全を保障する外交的代替策を提示することを主張する(205頁)。そのためには核問題と経済協力を切り離し、経済的相互依存関係を高めることで軍事挑発の素地を減らし、開放政策を採れるように誘導していくべきとする。

北朝鮮の核開発は国際社会が等しく憂慮するが、米国や中国が憂慮する理由は日本人には予想外なものであった。米国や中国にとって脅威は北朝鮮そのものではなく、北朝鮮の核開発に対抗する日本の軍拡・核開発である(311頁)。米国も中国も過去に日本の軍事攻撃を受けたという共通の歴史を有する。この発想は拉致問題の被害者意識に凝り固まった日本では出てこない。今起きていることだけでなく、歴史的スパンで考えることの重要さを実感した。

林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
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