[CML 003927] 訴訟上の和解をめぐる誤解

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 5月 2日 (日) 11:49:15 JST


記者(林田)の市民記者としての出発点は自己の経験した新築マンションだまし売り事件を記事として書くことであった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年、106頁)。
http://www.janjanblog.com/archives/960
これに対して、過去の話を蒸し返すことへの批判的な反応がなされることがあった。そこには歴史性に欠ける日本人の浅ましさがある。これは様々の分野の書籍で指摘されている通りである。

「自国・自国民が他国・多民族が受けた痛みはいつまでも覚えているが、他国・他国民に対して与えた痛みは忘れてしまう」(佐藤優『国家の罠』新潮社、2005年、119頁)。

「日本人は加害者でありながら被害者に向かって「すんだことをいつまでもガタガタいうな」と言ってのけることができる民族なのだ」(田中芳樹『創竜伝4四兄弟脱出行』講談社、1994年、138頁)。

「「過去にこだわるよりもこれからどうするかが大切だ」というような考え方はいかにも前向きに聞こえるが、過去を引きずらない現在はない。歴史を無視したのでは、現状に至る本質の認知が半端だから、将来への正しい路線・目標を設定できなくなる。外国からいちゃもんがつくとか何とかの問題ではない。国民性、資質の問題である」(奥井禮喜『労働組合とは何か』ライフビジョン、2005年、33頁)。

新築マンションだまし売り事件への言及に対する批判的な反応には過去を水に流してしまう日本人の一般的な欠点に加え、訴訟上の和解に対する無理解がある。そこで本記事では、この点について検討する。

記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えなど)を説明されずにマンションを購入した。引渡し後に真相を知った記者は消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、売買代金返還を求めて東京地裁に提訴した。東京地裁判決では記者が勝訴し、東京高裁において判決に基づいた内容で訴訟上の和解が成立した(林田力「マンション販売トラブルで「お詫び」 東急リバブル・東急不動産」JANJAN 2007年10月4日)。
http://www.news.janjan.jp/living/0710/0710023335/1.php

訴訟上の和解は民事訴訟法に規定された訴訟を終了させる形式の一つである。和解という言葉が使われているが、「仲直り」を意味する日常語的な和解とは別物である。法的紛争の元となった権利関係及び訴訟の終了について合意したに過ぎず、感情的また社会的に仲直りをしたことを意味しない。従って訴訟上の和解後に新築マンションだまし売り事件について記事を書くことに何ら制約は存在しない(決して好ましいことではないが、和解条項で制限されれば別である)。

実際のところ、記者にとって訴訟上の和解は自己の権利主張を推し進めるためのものであった。単純な金銭の支払いを求める裁判ならば確定判決後に強制執行すれば済む。ところが新築マンションだまし売り事件は売買契約の取消しに基づく売買代金の返還である。

単純化すれば「問題物件を返品するから売買代金を返せ」という主張である。売買代金を取り戻すためにはマンションを返品しなければならない。ところが、マンションは通信販売で購入した商品のように相手方に送りつけるわけにはいかない厄介なものである。

そこで訴訟上の和解によって、売買代金の返還、登記の移転、物件の明渡しなどを規定した。ここでは消費者契約法に基づき売買契約が取り消され、売買代金が返還されることを前提に手順や内容を詰めた。つまり一審判決の内容を実現するために具体化したものが和解調書であった。

このように訴訟上の和解は記者の権利を具体的に実現するためのものであって、東急不動産に遠慮したものでも妥協したものでもなかった。この点は東急不動産も認識していた筈であり、だからこそ和解条項を履行する段になって紛争を再燃させ、巻き返しを図ったものと思われる。

即ち、東急不動産は和解調書と異なる形での所有権移転登記を主張し(登記原因を「訴訟上の和解」ではなく、「和解」とするなど)、拒否されると金銭の支払いを拒否した。このような紛争が起きたこと自体が、訴訟上の和解が両者の一切の対立を解消するものではないことを雄弁に示している。

裁判の当事者にも「訴訟上の和解」を相手方への妥協や屈服と捉え、嫌がる人もいる。しかし、このような発想は日常語の和解との混同による誤解である。裁判で重要なものは自己の主張(請求)である。判決か訴訟上の和解かという形式ではなく、請求が認められたか否かが問題である。

訴訟上の和解は裁判を終了させる手続きの一つで、実務上多用されている。判決よりも訴訟の和解で終結する裁判の方が多いのが実態である。従って訴訟上の和解に対する正しい認識を持つことは、新築マンションだまし売り事件以外の他の事件を理解する上でも意義がある。

林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
http://hayariki.weebly.com/
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