[CML 004750] 中国人権情報(3)

Ken Kawauchi kenkawauchi at nifty.com
2010年 6月 29日 (火) 21:16:59 JST


河内謙策と申します。(情報を重複して受け取られた方は、失礼をお許しください。
このメールの転送・転載は自由です。)

 中国の人権派弁護士の状況について、私が人権派弁護士にいくつか質問をしまし
た。誰でもいいから回答をして下さい、と頼んでおいたところ、先日、人権派弁護士
の唐吉田(タン・チーティエン)から回答がきたので、以下、貼り付けます(6月25
日の「大阪の集い」で配布した文書と同一内容です)。人権派弁護士自身が何を考え
ているか、よく分かると思います。そのほかにも質問したいことがあれば、河内まで
ご連絡ください。

…………………………………………

中国人権派弁護士に関するいくつかの質問への回答  
                                          唐吉田
1、	現在中国公民の人権は保障されているか?
全体的な趨勢としては進歩している。たとえば憲法の改正、人権行動計画の制定、法
律の整備などが進歩を推進している。だが、一部の領域ではむしろ後退さえしている
のが現状で、とりわけ秘密警察の活動の頻繁さや労働強化制度の強化、言論の自由や
信仰の自由に対する干渉はむしろ悪化している。

2、	中国公民の人権の保障具合は改革開放前と比べてどうか?
改革開放前と比べればやはり改善されている。毛沢東時代の中国国民は官僚の道具に
ほかならず、人権という概念は批判されるものだった。改革開放以降、中国国民の人
権意識が高まり、尊厳のために努力して執政者に圧力を伝えた結果、政策は調整さ
れ、客観的に見て人権事業が発展するのを促進している。

3、	中国公民の人権は現行の法律制度でどの程度保障されているか?
第一に、憲法には「国家は人権を尊重、保障する」原則の規定がある。
次に、刑事訴訟法など手続き法には自ら弁護でき他人の弁護を委託できる権利があ
る。
続いて、全人代では≪市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)≫が批准さ
れていないものの≪人権行動計画≫が制定されている。
最後に、立法機関は人権問題に関しての立法を年々重視するようになっており、司法
機関も人権の角度から案件を処理する意識が強まっている。

4、	中国政府にも人権を改善しようとする意志はあるか?
一部の開明的な人はそう考えているはず。そうしてこそ官民一体で発展するのだか
ら。

5、	中国民衆の人権に対する関心は高まっているか?
社会矛盾の激増に伴い、中国民衆は一般の経済的意義での人権意識だけでなく、より
高い権利を主張し始め、自己の権利はもちろん、他人の権利への関心も高まってい
る。

6、	中国民衆はグーグルの中国撤退にどのような反応を示したか?
事実の真相を知る者は官製のネットの自由に対する制限に不満を示し、洗脳されてい
る者は米国企業に毅然たる態度を取った政府に骨があると表明している。

7、	最近発生した代表的な人権侵害の案件は?
最近で典型的なのは河南省のいわゆる趙作海殺人事件。冤罪で処刑されていた可能性
の大きい事件。

8、	チベット人には民族的権利などの人権が尊重されていますか?
私の知るところでは、部分的には享受しているが、憲法や法律に規定された権利と現
実の落差が非常に大きい。もちろん民族問題の最終的な解決は中国の民主化を抜きに
は考えられない。

9、08憲章の起草者・署名者に対する圧力はどのようであるか?
08年には相当数の人が警察で取り調べを受け、威嚇を受けた者もいるし、中には任意
同行を受けたり強制的に連行されて拘束を受けた者もいる。劉暁波さんを除くと直接
判決を受けた者は聞いてない。

10、高智晟さん、劉暁波さんの現状は?
高智晟はAP社のいわゆる取材を受けた後で消息を絶っている。彼と北京の警察関係
者がウルムチから同じ飛行機で引き返したとの岳父の証言があるだけだ。劉暁波は遼
寧省錦州で服役している。

11、中国の司法制度を簡単に説明してほしい。
中国大陸は基本的に前ソ連にならった司法制度を作っている。党の指導を強調し、政
法委員会を代表として執政党が警察(公安、国安)、検察院、裁判所、司法行政を管
理する。名目上は検察院、裁判所は独立して職権を行使できることになっているが、
実際には重大案件、敏感な案件など人権に関わる問題では政法委員会に従うのが常で
ある。近年は警察局長が政法委員会書記を兼ねるケースがあり、検察権や裁判権は捜
査権に比べて弱まっている。
 中国の司法制度は人権を保護するためのものではなく、執政党の地位を守るために
作られたものだ。

12、中国の司法は執政党やその他の機関から独立しているか?
独立していない。あらゆる機関および人員は最終的に執政党に従う。各クラスの党員
も上のクラスの党に従い、最終的には“九巨頭(政治局常委)”に従う。

13、公民が公正な裁判を受ける権利を中国政府は保障しうるか?
一般的な状況では可能だが、政府に異議を唱える人物は難しい。大多数の場合におい
て裁判は形式となり、違法行為だと見せないためだけの芝居になってしまい、真っ当
な意義などなくなってしまう。

14、中国政府は弁護士の自治を保障しうるか?
できない。弁護士協会は強制的に加入させられるものであり、弁護士は協会の事務に
対していかなる発言権も持たない。協会は行政当局にコントロールされており、弁護
士の権利を保護することなどできず、むしろ官僚に代わって弁護士の職業権利を制限
するのが常だ。

15、「考核」制度により弁護士は仕事の機会を失うのか?
このようなことは頻繁に起きており、前世紀から現在にかけて相当数の弁護士が考核
(過去は年検)により仕事の機会を失った。特に09年は30人余りが仕事の機会を失っ
た。

16、人権派弁護士に対する攻撃や妨害はあるか?
司法行政部門の干渉を受ける以外に、相当数の人権派弁護士が秘密の尾行、盗聴を受
けており、家族が脅迫を受けた者や、中には大連の王永航弁護士のように刑を受けた
者もいる。08憲章の署名者に対する手段と共通するものが少なくない。

17、人権派弁護士の生活レベルは?
圧倒的多数の生活レベルは高くない。苦しい者もいる。

18、人権問題に関心を持つ弁護士は増えているか?
関心を持つ者が増えていると言えるが、弁護士制度が反動的な局面にある中で今も多
くの者にとって容易に踏み込めない分野である。

19、人権派弁護士が現在重視する仕事は?
信仰や言論自由など公民の政治権利の案件に加えて、立ち退き、土地横取りといった
民生案件にも関心を持っている。他人を援助すると同時に、自分たち弁護士の人権を
まもる道も模索しており、連帯や各方面の支持を得ることで官僚の弁護士に対する違
法な封鎖を打破していきたい。

20、中国の人権派弁護士の仕事に努力する上での目標は?
民主・法治、人権、憲政を実現し、法律人自身の価値を作るために働いている。

21、日本の弁護士に希望すること
日本の弁護士の人権方面での経験を紹介してほしい。日本の弁護士は社会の転換時期
においていかなる積極的な役割を果たしたか、日本で司法の独立が実現したやり方、
中国の弁護士に対する印象、および国民の中の弁護士という職業のイメージをいかに
守ってきたかなどを紹介してほしい。また、日本の弁護士の方には、中国の弁護士に
対する率直な見方・期待を聞きたいし、対面交流の機会、皆で問題を討議しあう機会
がほしい。

22、日本の市民に希望すること
日本の市民の法律および弁護士に対する知識、人権擁護においての弁護士の役割をど
のように見ているか、日本の民主・法治・人権など現実問題をどう見ているか、法律
を信用しているか、司法文書上の義務を履行できるか、およびこうした点に関する中
国の状況を理解しているかなどを知りたい。また、中国の弁護士と問題を深く話し合
い、議論する機会がほしい。

                    (質問・河内謙策、訳・麻生晴一郎)

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