[CML 004705] 林田力「日本社会の非歴史性が問題だ」

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 6月 26日 (土) 13:27:07 JST


【PJニュース 2010年6月26日】日本社会が様々な問題を抱えていることは誰の目にも明らかである。その元凶は日本社会の非歴史性にあると考える。これは一言でまとめれば「過ぎたことにこだわらないことを是とする」体質である。焼け野原から経済大国にしてしまう前に進むことしかできない性質であり、それを美徳と勘違いするような発想である。

これは「日本社会が忘れっぽい」「日本人は記憶力がない」ということでは必ずしもない。「過去のことを忘れてしまう」「ある時点では激しい怒りを抱いたとしても、時の経過によって、それほどの怒りを感じなくなる」という現象は多かれ少なかれ民族を問わず人類に普遍的な性質である。過去の事件を時の経過により風化させてしまう傾向も、どこの国の社会にも見られる。

問題は上記の傾向に対し、どのようなスタンスをとるか、という点である。それを是として、焼け野原から経済大国にしてしまうような前に進むことしかしないのか。それとも、過去の真相を明らかにし、暗い過ちを記憶にとどめようと努めるのか。日本社会の問題は前者であることである。
http://news.livedoor.com/article/detail/4850015/
http://www.pjnews.net/news/794/20100625_11
日本社会の非歴史性を主張するためには、一義的には日本社会の特徴から非歴史的性質を示せば十分である。外国を持ち出して比較する必要はない。一般に比較の多用は、むしろ自説の論拠が弱い時に行われる傾向がある。また、何でも外国と比較しなければ気がすまない点も日本人の自信のなさの表れになる。

それでも外国と比較されたい方のために例示すればサッコ・バンゼッティ事件がある。アメリカ合衆国マサチューセッツ州ではサッコ・バンゼッティ事件の死刑執行から半世紀後に偏見と敵意に基づいた冤罪であると公表し、名誉回復させた。処刑日の8月23日を「サッコとバンゼッティの日」とし、事件を風化させないようにしている。日本でも冤罪事件は数多くあるが、当局が積極的に記憶にとどめようとすることはない。
http://www.janjanblog.com/archives/6681
また、日本とは異なり、過去の過ちを繰り返さないための試みとして、南アフリカの真実和解委員会(Truth and Reconciliation Commission)がある。アパルトヘイト(人種隔離政策)によって組織的に引き起こされた大量の被害について、真実を究明し、記録するために設けられた委員会である。同種の機能は韓国やペルー、東チモールにも見られる。

これは日本社会の問題解決の方法と対照的である。秘密裏に行われてきた犯罪の被害者を特定し、自己の巻き込まれた犯罪についての真実を明らかにし、被害者の人間的・市民的な尊厳を回復する真実和解委員会の試みは高く評価されるべきものである。

勿論、真実和解委員会の方式にも批判がある。最大の問題は加害者を恩赦してしまう点である。真実和解委員会の調査対象は、人道に対する罪と重なり、不処罰を許さないとする原則に反すると強く批判される。この点は真実和解委員会の限界である。
しかし、過去を明らかにせず、焼け野原から経済大国にしてしまうような前に進むことしかできない日本社会との対比において、欠点となるものではない。焼け野原から経済大国にしてしまうような前に進むことしかできない発想では、目の前にある問題をとにかく切り抜ければいいだけとなってしまう。人間は過去から学ぶ生き物である。それは歴史学者だけの仕事ではない。【了】



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