[CML 004629] 『ザ・コーヴ』『靖国』上映妨害は表現の自由の侵害(上)
Hayariki
hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 6月 21日 (月) 20:15:42 JST
【PJニュース 2010年6月21日】和歌山県太地町のイルカ漁を告発した米国のドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(ルイ・シホヨス監督)の上映中止が相次いでいる。『ザ・コーヴ』は第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞など多くの賞を受賞した話題作である。世界中で上映され、大きな反響を呼んでいる。
ところが日本では上映に対して脅迫的な抗議を受けている。これに対し、暴力で上映を中止することは、言論・表現の自由を侵害するとの抗議の声も出されている。この問題は同じく上映の是非が論議された作品『靖国 YASUKUNI』と比較することで本質が浮き彫りになる。
http://news.livedoor.com/article/detail/4839854/
http://www.pjnews.net/news/794/20100620_5
『靖国 YASUKUNI』(李纓監督)は靖国神社を描いた日中合作のドキュメンタリー映画で、香港国際映画祭にて最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。『靖国』も一部団体から「反日的」と糾弾され、上映が妨害された点で『ザ・コーヴ』と共通する。『ザ・コーヴ』と『靖国』への攻撃には共通する特徴がある。本記事では3点指摘する。
第1に右翼団体などにより、映画が「反日的」と糾弾され、「抗議活動」名目での脅迫的妨害が行われた。『靖国』では上映予定の都内の映画館に街宣をかけた右翼団体構成員が逮捕された(「映画「靖国」街宣の右翼団体構成員ら逮捕」産経新聞2008年5月2日)。『ザ・コーヴ』では主権回復を目指す会などが日本配給元であるアンプラグドの加藤武史社長宅に押しかけ、警察が出動する騒ぎになった。
映画の内容が妥当であるか、作品の質が高いかということと、上映の是非は別の問題である。評価が割れ、多くの人が反発する映画でも、それを上映する自由は保障される。それが表現の自由である。特定集団の脅迫的な抗議によって、映画が上映できなくなる状態は表現の自由が脅かされている。これは民主主義の根幹を脅かす国民全てに関わる重大な問題である。
『靖国』は最終的には多くの映画館で上映された。しかし、それを根拠に表現の自由の問題を過小評価することは不当である。結果的に映画が公開された要因は製作側と表現の自由の侵害に対して抗議した人々の努力である。表現の自由の侵害者と非難された側が表現の自由を尊重したからではない。
上映支持派の抗議によって、目立った上映妨害が起きていないならば、それは表現の自由にとって歓迎すべきことであり、表現の自由を擁護するための活動に意義があったことになる。表現の自由を擁護する戦いの勝利であり、抗議の正しさを示すものである。映画の盛況は、表現の自由を侵害してまでアジア人民に未曾有の惨禍をもたらした日本の戦争責任を否定しようとする悪意ある試みが挫折したことを意味する。『靖国』上映騒動が表現の自由の問題であることは変わらない。
『ザ・コーヴ』と『靖国』で多少異なる点は作品そのものへの支持である。『靖国』では作品を肯定的に評価する側と否定する側で激しい対立があった。各々のバックグランドが、肯定派が戦前の日本のあり方を否定的に捉える立場、否定派が戦前との連続性を肯定する立場に大別されることも興味深い。外国人監督作品ながら、日本社会の対立軸に見事にフィットしており、それだけでも『靖国』の秀逸さを示している。
これに対して、日本社会では『ザ・コーヴ』の作品内容やメッセージを積極的に評価する声は強くない。上映中止に抗議する立場も、イルカ漁には賛成という立場も少なくない。この点で『ザ・コーヴ』上映支持の主張は『靖国』以上に表現の自由の問題が純化されたものになる。【つづく】
林田力(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者)
http://hayariki.weebly.com/
http://www51.tok2.com/home/hayariki/
市民メディアHAYARIKI
http://hayariki-d2.r-cms.jp/
CML メーリングリストの案内