[CML 004448] 【5・28SCC合意の特徴と問題点 第1次のまとめ】井上澄夫(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)
加賀谷いそみ
QZF01055 at nifty.ne.jp
2010年 6月 8日 (火) 23:45:56 JST
【転送・転載歓迎】
みなさんへ
これは5月28日に発表された「日米共同声明」についての私の見解です。な
お分析途上ですが、菅新政権では、鳩山前政権の沖縄関係閣僚のうち岡田外相、
北沢防衛相、前原沖縄担当相が留任し、菅新首相が電話会談でオバマ米大統領に
「声明」の履行のため「しっかりと努力する」と約束するなど、沖縄・奄美差別
政策の推進が早くも公言されているので、とりあえず「第1次のまとめ」として
公表します。今後、様々な見解を参照しつつ、私の見解をより鮮明かつ確実なも
のにしようと思います。
井上澄夫(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)、2010・6・8
【メモ】5・28SCC合意の特徴と問題点 第1次のまとめ
井上澄夫(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)
※2010年5月28日の「日米共同声明」といわれるもののタイトルは、
「共同発表:日米安全保障協議委員会」である。正文は英語で以下で検討する翻
訳は外務省の仮訳である。したがって記述にあたっては英語の正文も参照する。
日米安全保障協議委員会は日米の外務・防衛閣僚から成る。それゆえ「2+2」
と略されることが多い。今回の発表の主体は、岡田外務大臣・北沢防衛大臣・ク
リントン国務長官・ゲイツ国防長官であり、文書はその4人が合意した内容であ
る。したがってこのメモでは文書名を「5・28SCC合意」と略記する。また
朝鮮民主主義人民共和国を「北朝鮮」と略記する。
日米安全保障協議委員会
英語名 the U.S.-Japan Security Consultative Committee
略 称 SCC
〔メモ記述の方法〕 各段落・各項目ごとに引用とコメント(◆の部分)を付
する。
●第1段落 SCCの構成員たる閣僚は,沖縄を含む日本における米軍の堅固な
前方のプレゼンスが,日本を防衛し,地域の安定を維持するために必要な抑止力
と能力を提供することを認識した。
◆これは、鳩山首相が沖縄に「県内移設」を強要する根拠とした「論理」であ
る。鳩山氏はもともと「駐留なき安保」論者だった。それは「事前集積などの展
開で、海兵隊は常時駐留する必要はなくなり、後方即応配備の可能性もある」
(97年4月)、「海兵隊が必ずしも沖縄に駐留する必要はない」(98年1月)
など彼が民主党代表として沖縄で語った言葉に如実に表われている。しかし「5
・28SCC合意」の10日前、鳩山首相はこう語っている。
「日米安保の下、日本は独自の防衛力とともに米国の存在によって守られてい
る。単独の自衛と比べれば、はるかにコストが低い。日米同盟を深化させること
が日本の国益、アジアの繁栄につながる」(5・18付『産経』)。
彼は自民党流安保観にすっかり転向したのである。もっともSCCにおける交
渉は岡田外相と北沢防衛相が行ない、両者はともに古典的な安保観の持ち主であ
るから、第1段落冒頭の次の文言は初めから決まっていたというべきである。
「2010年5月28日,日米安全保障協議委員会(SCC)の構成員たる閣
僚は,日米安全保障条約の署名50周年に当たる本年,日米同盟が日本の防衛の
みならず,アジア太平洋地域の平和,安全及び繁栄にとっても引き続き不可欠で
あることを再確認した。北東アジアにおける安全保障情勢の最近の展開により,
日米同盟の意義が再確認された。この点に関し,米国は,日本の安全に対する米
国の揺るぎない決意を再確認した。日本は,地域の平和及び安定に寄与する上で
積極的な役割を果たすとの決意を再確認した。」
鳩山首相は対米交渉で確かに「無条件降伏」したが、岡田外相と北沢防衛相は
これまで辺野古現行案の履行を主張してきたのだから(岡田外相は一時期、嘉手
納統合にこだわったが、宮城篤実嘉手納町長らに峻拒されて辺野古現行案に回帰
した)、鳩山首相の「最低でも県外」という公約は閣内でも外堀を埋められ、初
めから実現性が薄かったのである。
いうまでもなく、だからといって、鳩山首相が「最低でも県外」の公約を自ら
踏みにじって開き直ったことが許されるわけではない。
●第2段落 「閣僚は,沖縄を含む地元への影響を軽減するとの決意を再確認し,
これによって日本における米軍の持続的なプレゼンスを確保していく。この文脈
において,SCCの構成員たる閣僚は,同盟の変革と再編のプロセスの一環とし
て,普天間飛行場を移設
し,同飛行場を日本に返還するとの共通の決意を表明した。」
◆要するに「普天間飛行場の移設」は沖縄を含む地元の負担軽減が一義的な目
的ではなく、あくまで「日本における米軍の持続的なプレゼンスを確保」するた
めである。普天間返還は「同盟の変革と再編のプロセスの一環」である。つまり、
「米軍再編」を円滑に遂行するという目的に奉仕する。
●第3段落 閣僚は,このSCC発表によって補完された,2006年5月1日
のSCC文書「再編の実施のための日米ロードマップ」に記された再編案を着実
に実施する決意を確認した。
◆普天間移設が進まず「再編の実施のための日米ロードマップ」(以下「ロー
ドマップ」)が着実に実施されていないことへの米国政府の不満が表われている
が、日本政府はこの「決意」表明によって「ロードマップ」の確実な履行を迫ら
れることになった。これは米国政府による日本政府への駄目押しである。
●第4段落 閣僚は,2009年2月17日の在沖縄海兵隊のグアム移転に係る
協定(グアム協定)に定められたように,第三海兵機動展開部隊(MEF)の要
員約8000人及びその家族約9000人の沖縄からグアムへの移転は,代替の
施設の完成に向けての具体的な進展にかかっていることを再確認した。グアムへ
の移転は,嘉手納以南の大部分の施設の統合及び返還を実現するものである。
◆第3段落の「決意」表明を受けて、改めて「ロードマップ」とグアム移転協
定の内容を確認した。代替施設の完成が遅れれば、グアム移転は遅れ、嘉手納以
南の米軍基地の返還も遅れるということだが(玉突き遅延)、これは沖縄の人び
とへの恫喝にほかならない。2006年のSCC合意である「ロードマップ」も
2009年の「グアム移転協定」も沖縄の人びとの頭越しに勝手に決められたに
もかかわらず、沖縄の人びとが日米両政府間の合意実現を妨害すれば在沖米軍基
地の整理・統合・縮小が遅れると脅しているのである。
●第5段落 このことを念頭に,両政府は,この普天間飛行場の移設計画が,安
全性,運用上の所要,騒音による影響,環境面の考慮,地元への影響等の要素を
適切に考慮しているものとなるよう,これを検証し,確認する意図を有する。
◆この段落は非常に微妙なニュアンスに満ちている。「要素を適切に考慮して
いるものとなるよう」は「要素を適切に考慮するよう」と明確に訳すべきだが、
この意図的なあいまいさは、現在の普天間移設計画が「安全性,運用上の所要,
騒音による影響,環境面の考慮,地元への影響等の要素を適切に考慮しているも
の」とはいえないことを反映している。それゆえ「これを検証し、確認する意図
を有する」としてはいるものの、この表現には先行きの不透明さがにじんでいる。
「検証し、確認する意図を有する」は回りくどい訳だが、原文は(the two
sides) intend to verify and validateであり、「確証しようと思う」という
ほどの意味である。この回りくどさは「適切な考慮」の困難さを反映しているの
ではあるまいか。考慮されるべき要素のうち、運用上の所要は米軍の都合だが、
安全性、騒音による影響、騒音による影響、環境面の考慮、地元への影響などは
軍が軍である以上、もともとクリアーできない。この段落は新基地建設が容易で
ないことを如実に示している。
●第6段落 両政府は,オーバーランを含み,護岸を除いて1800メートルの
長さの滑走路を持つ代替の施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣
接する水域に設置する意図を確認した。
◆2006年の「ロードマップ」の記述をまず確認したい。
〈日本及び米国は、普天間飛行場代替施設を、辺野古岬とこれに隣接する大浦
湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置し、V字型に配置される2本の滑走路はそれぞ
れ1600メートルの長さを有し、2つの100メートルのオーバーランを有する。各滑
走路の在る部分の施設の長さは、護岸を除いて1800メートルとなる。〉
ここでは新基地の位置が「辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域
を結ぶ形」とされているが、「5・28SCC合意」は「キャンプ・シュワブ辺
野古崎地区およびこれに隣接する水域に位置する」と記述している。マスメディ
アは辺野古沖浅瀬を強調し、記事に添付する想定地図では新基地建設の位置がい
かにも大浦湾と無関係の印象を与えるが、辺野古崎地区に「隣接する水域」とい
う表現はあいまいで油断できない。
大浦湾側に海兵隊員輸送船の接岸施設を建設する計画もかつて取り沙汰された。
第1段落に「北東アジアにおける安全保障情勢の最近の展開により」とあるが
(後注参照)、そういう理由づけが海兵隊の有事即応運用に結合されて軍港併設
へと発展することも想定できないことではない。かつて浮上した勝連沖埋め立て
案が造成される人工島基地に米軍那覇軍港を移設することを含んでいたことも想
起されるべきだろう。
※ 注 3月に起きた韓国軍哨戒艦沈没事件のことを指すと思われる。
滑走路の記述に「護岸を除いて」とある部分は、正文ではexclusive of
seawalls である。seawallは防波堤や防潮堤のことで、それが複数になってい
ることは何を意味するのか。防波堤建設も海の生態系を破壊する。1800mの
滑走路建設のためにどれほどの面積の海が埋め立てられるのだろうか。
本文書は新基地を自衛隊が共同使用する日本側の案に触れていない。米側がそ
れなら滑走路を拡張するしかないと主張してその案をつぶしたという報道がある。
それは事実かもしれないが、米国側は96年の合意から14年経って着工すらで
きないのだから、面倒な話を持ち出してこれ以上移設を遅延させるなというハラ
と思われる。しかし日米軍事一体化という米軍再編の主目的からいえば共同使用
は米軍にとっても望ましいことであるから、今後もそれが交渉の俎上にのぼらな
いと決めつけることはできない。(後述する「施設の共同使用」の項で再論す
る。)
●第7段落 普天間飛行場のできる限り速やかな返還を実現するために,閣僚は,
代替の施設の位置,配置及び工法に関する専門家による検討を速やかに(いかな
る場合でも2010年8月末日までに)完了させ,検証及び確認を次回のSCC
までに完了させることを決定した。
両政府は,代替の施設の環境影響評価手続及び建設が著しい遅延がなく完了で
きることを確保するような方法で,代替の施設を設置し,配置し,建設する意図
を確認した。
◆この段落も読み方に十分注意したい。新基地を2014年までに完成させる
ためには、施設の位置、配置及び工法に関する検討を「速やかに(いかなる場合
でも2010年8月末日までに)完了させ」ねばならないという。それらの検討
課題では日米が一致していないのである。「代替の施設の環境影響評価手続及び
建設が著しい遅延がなく完了できることを確保するような方法」という表現が新
たなアセスメントを行なわないで新基地建設を強行するということである。実際、
グレッグソン米国防次官補は朝日新聞のインタビューでこう明言している(6・
6付『朝日』)。
「米国政府は、改善の余地があれば常に前向きに取り組む用意がある。しかし、
環境影響評価をゼロからやり直すことを避けるため、修正は現行の評価で対応で
きる枠内にとどめたい」
――ということは、新たな環境影響評価は認めないということですか。
「その通りだ」
ただし、日本の国内法上、新規のアセスメントを必要とするかしないかという
問題とグレッグソンの「認めない」という米国政府の意思とは別の問題であるこ
とはいうまでもない。これまでのアセスメントがいかに杜撰で科学的根拠に乏し
いかは余すところなく暴露されているのだから、アセスメントをやり直せという
主張は理にかなっている。埋め立ての工法さえ明らかにできない段階で「認めな
い」と断言するグレッグソンの暴慢な姿勢を許すわけにはいかない。アセスメン
トのやり直しや新規のアセスメントを求めることは、私たちの今後の重要な課題
である。
●訓練移転
両政府は,二国間及び単独の訓練を含め,米軍の活動の沖縄県外への移転を拡
充することを決意した。この関連で,適切な施設が整備されることを条件として,
徳之島の活用が検討される。日本本土の自衛隊の施設・区域も活用され得る。両
政府は,また,グアム等日本国外への訓練の移転を検討することを決意した。
◆あえて徳之島を例示したのは沖縄に負担軽減を印象づけるための日本政府側
の要請によると報道されている。「適切な施設が整備されることを条件として,
徳之島の活用が検討される。」という記述には注意したい。平野官房長官はもと
もと普天間の基地機能や訓練の移転を徳之島に強要しようとした。しかし3町の
町長が鳩山首相に毅然として反対の姿勢を示したため、一時、主として訓練の移
転を島の誘致派に持ちかけた。ところが平野長官は「5・28SCC合意」の直
前に、徳之島移設は訓練に〈限らず〉基地機能の移転を含むと態度を変えた。
「適切な施設の整備」とは米軍施設の新設であり、基地の移転を意味する。平野
長官が地元の移転誘致派に提示した空港拡張案は滑走路に隣接する干潟の埋め立
てのほか「周囲の住民の移転」を含んでいた。「徳之島の活用」については、今
後どんな計画が飛び出すか予断を許さない。
「日本本土の自衛隊の施設・区域も活用され得る」も大きな問題をはらんでい
る。全国の自衛隊の基地・駐屯地や演習場が対象となるからである。鳩山首相が
駆け込みで「召集」した全国知事会では色よい返事をしたのは橋下大阪府知事だ
けだった(それも現状ではリップサービスの域を出ない)。菅首相が鳩山首相と
同じ姿勢を示せば(彼はすでにオバマ米大統領に「5・28SCC合意」の履行
を表明した)、米軍訓練の「本土」版たらい回しが始まる。
「両政府はまた,グアム等日本国外への訓練の移転を検討することを決意した」
は、当面、検討課題にするという意味にすぎない。鳩山政権がこれまで本気で国
外を検討した形跡はまったくない。菅新首相の出方は未知数であるが。
●環境
環境保全に対する共有された責任の観点から,閣僚は,日米両国が我々の基地
及び環境に対して,「緑の同盟」のアプローチをとる可能性について議論するよ
うに事務当局に指示した。「緑の同盟」に関する日米の協力により,日本国内及
びグアムにおいて整備中の米国の基地に再生可能エネルギーの技術を導入する方
法を,在日米軍駐留経費負担(HN
S)の一構成要素とすることを含め,検討することになる。閣僚は,環境関連事
故の際の米軍施設・区域への合理的な立入り,返還前の環境調査のための米軍施
設・区域への合理的な立入りを含む環境に関する合意を速やかに,かつ,真剣に
検討することを,事務当局に指示した。
◆「緑の同盟」は正文では“Green Alliance”である。文脈上は「再生可能エ
ネルギーの技術の導入」を意味するようだが、具体的な内容は明示されていない。
おそらくバイオテクノロジー、風力発電、太陽光発電などの導入を意味するのだ
ろう。先に紹介したグレッグソン米国防次官補は同じインタビューでこう語って
いる。
「さらに今後実現したいと思っているのは、IT技術の導入だ。すでに日米両
国は『グリーン同盟』構想を話し合っている。ハワイやグアムの教育機関と協力
して、我々は沖縄に再生可能エネルギーの技術を紹介したい。これが沖縄の若い
人たちに、より多くの教育の機会を提供することにも結びついてほしいと願って
いる。そうなれば沖縄の戦略的な重要性が、当たり前な安全保障面にとどまらず、
経済面にも広がる」
4月24日付『産経』の記事「日米同盟“緑“の新提案」にこういう記述があ
る。
〈昨年9月に面談したウォレス・グレグソン国防次官補はこう力説する。「中
国が海軍力を東シナ海から太平洋にまで拡大しようとしている。マーシャル諸島、
ソロモン諸島、ミクロネシアなどの太平洋島嶼(とうしょ)国はインフラが貧弱。
中国は経済協力を通じ、海軍力の太平洋進出の布石を打っている」
海兵隊退役中将で、沖縄にもハワイにも駐留経験を持つグレグソンは、こう提
案した。「島嶼国から中国の影響力を削(そ)ぐため、日米は協力すべきだ。日
本の優れた環境技術で島嶼国のインフラをグリーン化するのだ。グリーンアライ
アンス(緑の同盟)と呼べる、日米の新たな同盟の形になる」〉
「日本の優れた環境技術」を中国海軍の太平洋進出に対抗するために「活用」
しようという生臭いアイディアである。先に紹介した「我々は沖縄に再生可能エ
ネルギーの技術を紹介したい。これが沖縄の若い人たちに、より多くの教育の機
会を提供することにも結びついてほしい」という彼の発言の仮面を剥ぐとこうい
う素顔が出てくるのだ。
しかも看過できないのは、それが「在日米軍駐留経費負担(HNS)の一構成
要素」とされることだ。これは思いやり予算が当てにされていることで、実際、
岡田外相は6月1日の参院外交防衛委員会で、再生可能エネルギー技術導入に必
要な経費を思いやり予算で負担することを検討する考えを明らかにした(6・1
付『毎日』)。
「閣僚は,環境関連事故の際の米軍施設・区域への合理的な立入り,返還前の
環境調査のための米軍施設・区域への合理的な立入りを含む環境に関する合意を
速やかに,かつ,真剣に検討することを,事務当局に指示した。」は日米地位協
定の改定にかかわるが、これも沖縄の人びとに「県内移設」を受け入れさせるた
めのアメである。地位協定を改定せず「運用の改善」でお茶を濁してきた手法が
繰り返されるだけではあるまいか。日米地位協定の改定にまったく触れないこと
自体がそれを予感させる。
●施設の共同使用
両政府は,二国間のより緊密な運用調整,相互運用性の改善及び地元とのより
強固な関係に寄与するような米軍と自衛隊との間の施設の共同使用を拡大する機
会を検討する意図を有する。
◆この文脈で重要な意味があると思えるのは「米軍と自衛隊との間の施設の共
同使用を拡大する機会を検討する」という部分だが、共同使用は沖縄を含め全国
各地ですでに進行している。ここであえて「共同使用の拡大」に触れているのは
なぜだろうか。有事法制の整備では有事における民間の空港、港湾などの強制使
用が焦点の一つだったが、米軍再編は日米の軍事一体化(融合)が大きな目的で
ある。その文脈で考えると、「二国間のより緊密な運用調整,相互運用性の改善
……に寄与するような」という表現は熟考に値する。6月5日付『琉球新報』に
こういう記事が掲載された。
〈政府は4日、在沖米海兵隊の役割について、日本や極東での武力紛争発生時
に「来援する米軍軍隊の受け入れ基盤の確保に当たる」などとする政府答弁書を
閣議決定した。有事で日本以外からの米軍応援部隊を受け入れる体制整備の必要
性を指摘した。〉
「有事における米軍応援部隊受け入れ体制の整備の必要」。政府がこういう口
実で米海兵隊の役割を増大させるのは、海兵隊の沖縄駐留は抑止力にならないと
いう異論への反論の面があると思われるが、有事態勢のよりいっそうの整備とい
う意味も含まれるだろうから要注意である。米国政府が中国の軍拡に神経をとが
らし始めていることは明らかであり、
基地の「共同使用の拡大」という言葉には明示されない多様で危険な意味が含ま
れているのではないだろうか。
ところで「地元とのより強固な関係に寄与するような米軍と自衛隊との間の施
設の共同使用」はマンガ的な形容矛盾と思えるが、実際、どういう事態を想定し
ているのだろうか。「共同使用」は基地周辺の飲食店や娯楽施設がにぎわい経済
浮揚効果があるとでもいうのだろうか。
●訓練区域
両政府は,ホテル・ホテル訓練区域の使用制限の一部解除を決定し,その他の
措置についての協議を継続することを決意した。
◆沖縄の人びとがこれまで繰り返し要求してきたことを値切って「実現してや
る」ということである。これもまた「県内移設」受け入れの見返りである。
●グアム移転
両政府は,2009年2月17日のグアム協定に従い,(3) MEFの要員約8
000人及びその家族約9000人の沖縄からグアムへの移転が着実に実施され
ることを確認した。このグアムへの移転は,代替の施設の完成に向けての日本政
府による具体的な進展に
かかっている。米側は,地元の懸念に配慮しつつ,抑止力を含む地域の安全保障
全般の文脈において,沖縄に残留する(3) MEFの要員の部隊構成を検討する。
◆第3段落を検討した部分でのべたことは繰り返さないが、「米側は,地元の
懸念に配慮しつつ,抑止力を含む地域の安全保障全般の文脈において,沖縄に残
留する(3) MEFの要員の部隊構成を検討する。」という部分はグアム移転に関
する米側方針に揺らぎがあることを自ら暴露している。「(3) MEFの要員約8
000人及びその家族約9000人の沖縄からグアムへの移転」については、そ
の人員数がいい加減であることがつとに指摘されてきた。そうなら「ロードマッ
プ」もグアム移転協定もペテン文書であり廃棄が当然である。
●嘉手納以南の施設・区域の返還の促進
両政府は,嘉手納以南の施設・区域の返還が,「再編の実施のための日米ロー
ドマップ」に従って着実に実施されることを確認した。加えて,両政府は,キャ
ンプ瑞慶覧(キャンプ・フォスター)の「インダストリアル・コリドー」及び牧
港補給地区(キャンプ・キンザー)の一部が早期返還における優先分野であるこ
とを決定した。
◆一部地区を特定して「早期返還における優先分野」と称しているのは、遊休
・不要の施設でも日本政府が米国政府のいうことを聞かない限り返す気はないと
脅迫しているのである。
●嘉手納の騒音軽減
両政府は,航空訓練移転プログラムの改善を含む沖縄県外における二国間及び
単独の訓練の拡充,沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告の着実
な実施等の措置を通じた,嘉手納における更なる騒音軽減への決意を確認した。
◆これも沖縄の人びとの怒りを増幅させるだけの言い草である。嘉手納基地か
ら「本土」に訓練が移転されても外来機が増えて騒音(爆音)は減らないどころ
か一層深刻になっているのが現実だ。この部分は「5・28SCC合意」が沖縄
の頭越しに勝手に作成されたことを無惨にさらけ出している。
●沖縄の自治体との意思疎通及び協力
両政府は,米軍のプレゼンスに関連する諸問題について,沖縄の自治体との意
思疎通を強化する意図を確認した。両政府は,ITイニシアチブ,文化交流,教
育プログラム,研究パートナーシップ等の分野における協力を探究することを決
意した。
◆「沖縄の自治体との意思疎通」など端(はな)から念頭にないにもかかわら
ず、こう放言してはばからない。「沖縄の自治体との意思疎通を強化する意図を
確認した」はたちの悪い冗談である。「強化する」とは意思疎通がすでになされ
ており、それを強めるという意味だが、これまでに意思疎通は実現していたのか?
沖縄の人びとは「米軍のプレゼンス」の意味を確認したいのではない。「米軍
のプレゼンス」そのものを拒否しているのである。それに「ITイニシアチブ,
文化交流,教育プログラム,研究パートナーシップ等の分野における協力」は米
軍が沖縄から撤退してもできる。いや「基地のない平和な島」が実現してこそ
「協力」は実を結ぶだろう。
●安全保障協力を深化させるための努力の一部として,SCCの構成員たる閣僚
は,地域の安全保障環境及び共通の戦略目標を推進するに当たっての日米同盟の
役割に関する共通の理解を確保することの重要性を強調した。この目的のため,
SCCの構成員たる閣僚は,現在進行中の両国間の安全保障に係る対話を強化す
ることを決意した。この安全保障に係る対話においては,伝統的な安全保障上の
脅威に取り組むとともに,新たな協力分野にも焦点を当てる。
◆最後に改めてあえて念押ししておくが、文書は「SCCの構成員たる閣僚」
4人が談合して合意したことを文書化したものにすぎない。「5・28SCC合
意」は日本の国会と米国の議会で承認されたものではない。日本国憲法を支える
国民主権原理からして国会での承認のない「取り決め」はまったく正当性を持た
ない。したがって「5・28SCC合意」は米国政府が強調したがる「国と国と
の約束」などではない。この文書は二国間の条約や協定ではないのだ。
与党の民主党鹿児島県連は「5・28SCC合意」に訓練移転先として徳之島
が明記されたことに抗議し撤回を求めている。その事態は日米の4閣僚間合意が
国家間条約などではなく、当座の取り決めであることをはしなくも象徴している。
なお上の文中には「この安全保障に係る対話においては,伝統的な安全保障上
の脅威に取り組むとともに,新たな協力分野にも焦点を当てる」とある。「伝統
的な安全保障上の脅威」とはたとえば「北朝鮮の核武装」とか「中国の軍拡」で
あり、「新たな協力分野」とは対テロ戦略などのことだろう。しかし日米4閣僚
の個人的談合の備忘録に国家の仮面をかぶせたところで、それが何かの権威づけ
になるわけではない。「日米同盟の役割」はそうした茶番劇においてではなく、
私たちが根底から批判の対象にすべきものである。
(2010・6・8、記)
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