[CML 004433] イラン・パペ「イスラエルの思考の破壊的な閉鎖状況」(転送)
Yasuaki Matsumoto
y_matsu29 at ybb.ne.jp
2010年 6月 7日 (月) 12:47:03 JST
金城美幸です。
英紙ザ・インディペンデントにイラン・パペの文章が掲載されていました。
ガザ自由船団事件そのものというよりも、ガザ封鎖を初めとするパレスチナ人に対するイスラエルの管理・支配の思考を問題化する文章になっていますが、ご参考までに翻訳をお送りいたします。
以下、訳文。
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■「イスラエルの思考の破壊的な閉鎖状況」
イラン・パペ
ガザ船団に対する残忍な攻撃以降、イスラエルの名声が落ちても、この国の指導者には影響しそうもない
ザ・インディペンデント電子版
http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/ilan-papp-the-deadly-closing-of-the-israeli-mind-1992471.html
2010年6月6日日曜日
イスラエルの政治・軍事システムの頂点には2人の男がいる。エフード・バラクとベンヤミン・ネタニヤフである。彼らはガザ船団への残忍な攻撃の背後にいる人物である。この事件は世界に衝撃を与えたが、一般のイスラエル人からは純粋な正当防衛と見なされているようだ。
彼らはイスラエル政治の左派と右派の出身であるが(国防相バラクは労働党、首相ネタニヤフはリクード党)、彼らの思考は、ガザ一般に関しても、こと船団に関しても、同じ歴史観および同一の世界観に影響されている。
かつてエフード・バラクは、イスラエル軍のなかで、SAS(イギリス陸軍特殊空挺部隊)に匹敵する機動力をもつ部局で、ベンヤミン・ネタニヤフの指揮官を務めていた。よりはっきり言えば、彼らは先週トルコ船を攻撃した部隊と同じような部隊で働いていたのだ。彼らのガザ地区についての現状認識は、ほかのイスラエルの政治的・軍事的エリートの指導的メンバーにも共有されており、国内ではユダヤ系有権者たちの広範な支持を得ている。
彼らの現状認識は単純である。つまり、ハマースは、民衆によって民主的に選ばれたアラブ世界唯一の政府であるにもかかわらず、その政治力は軍事力と同様に抹殺されねばならないのだ。この理由は、ハマースがイスラエル内に簡素なミサイルを飛ばすことで、ヨルダン川西岸地区とガザ地区におけるイスラエルの40年におよぶ占領に対する闘争――たいていイスラエルによる西岸地区のハマース活動家殺害に対する報復として行われている――を続けているからではない。そうではなく、イスラエルがパレスチナ人に押しつけたいと望んでいるところの「和平」一切に対して、ハマースが反対していることが主な理由である。
和平の強制は、イスラエルの政治的エリートたちにとっては交渉の余地のないものだ。この和平がパレスチナ人に与えるものは、ガザ地区と、一部の西岸地区に対する限定的なコントロールと主権である。パレスチナ人は、イスラエルの厳重なコントロールと監視のもとで、3つの小さなバンツースタンを作ることと引き換えに、民族自決と解放のための闘争を諦めるよう求められているのだ。
それゆえ、イスラエルの公的見解では、ハマースはこうした和平を押しつけるうえでの手ごわい障害だとされている。したがって、イスラエルが明言する戦略は明快なものである。つまり、世界一の人口密集地に暮らす150万人のパレスチナ人を、飢餓状態に置き、窒息させるによって、降伏に追いやるのだ。
2006年に封鎖を科したことで、ガザの人びとに、今のパレスチナ政府を、イスラエルの命令を受け入れる政府――少なくとも西岸地区でより停滞気味となっているパレスチナ自治政府の一部になるような政府――に代えさせられるはずだった。その間、ハマースはイスラエル人兵士ギルアド・シャリートを捕らえたため、封鎖がより厳重になった。この封鎖では、人間がそれなしでは生きのびることができないような最も基本的な日用品の搬入が禁じられた。ガザの人びとは、食料や医薬品が欠乏し、セメントやガソリンも足りないなか、国際組織や国際機関が「破局的で犯罪的」と言い表す状況に置かれている。
船団の事件と同様、イスラエルが捕らえている何千人ものパレスチナ人政治囚とシャリートを交換するなど、捕らえられた兵士の解放のための別の方法がある。政治囚の多くは子どもであり、多くの人びとが裁判もないまま拘束されている。イスラエル人たちは、こうした交換についての交渉に重い足を引きずりながら加わったが、この交渉が近い将来に実を結ぶことはありそうもない。
しかしバラクとネタニヤフ、そして彼らの周りの人びとは、ガザに対する封鎖がハマースの態度に何らの変化ももたらすものではないことを十分承知しているのだ。イギリス首相デーヴィッド・キャメロンの言葉は信じるに値する。彼は先週の記者からの質問に答え、イスラエルの政策はハマースを弱体化させるよりむしろ、ハマースのガザへの影響力を強めていると発言した。しかしイスラエルの戦略は、その明言された目的とは逆に、成功を目指してはいないのだ。あるいは少なくともエルサレムにいる高官たちは、だれもこの戦略が実を結ばず無駄なものであり続けるかどうかの心配などしていない。
国際社会においてイスラエルの名声が劇的に下がったことは、イスラエルの指導者たちが考えを改めることにつながると考えるものがいるかもしれない。しかし船団への攻撃についてのここ数日間のイスラエルの対応は、イスラエルの公式の立場に何ら意味ある変化が起こることが全く期待できないことをはっきり示している。封鎖の継続の確約や、地中海で海賊行為を働いた兵士たちを英雄として迎え入れたことなどは、同じ政治が長い間続いていることを示している。
これは驚くことではない。バラク‐ネタニヤフ‐アヴィグドール・リーベルマンの政府は、パレスチナとイスラエルの現実に対して、他に応答する手段を知らないのだ。半飢餓状態にあるガザの人びとや、彼らの支援のために駆けつけた人びとをテロリストだと悪魔化する一方、正当防衛を主張する興奮したプロパガンダ機械と自分の意志を押しつけるために、残忍な軍事力を用いること。イスラエルの政治家たちが唯一歩みうるのは、こうした道しかないのだ。こうした決定が、人間の死と苦しみという恐ろしい結果をもたらすことは、国際社会からの非難と同様に、彼らの関心外のことである。
イスラエルの真の戦略は、明言している戦略とは異なり、現状を継続させることである。国際社会が無頓着である限り、またアラブ世界にも力がなくガザが封じ込められている限り、イスラエルは依然として経済の繁栄を享受するのであり、有権者たちは、軍が生活を支配することや紛争が続くこと、そしてパレスチナ人を抑圧することが、イスラエルで暮らすうえで、過去・現在・未来を通じての唯一の現実だと見なすのだ。先ごろ、アメリカの副大統領ジョー・バイデンは、イスラエルによって屈辱的な扱いを受けた。それは彼が入植地政策を凍結させるべくやって来たその日に、イスラエルがエルサレムの係争中のラマット・シュロモー地区に1,600戸の家屋を新しく建設することを告知したためである。しかし、バイデンは今や、ここ数日間のイスラエルの行動に対して無条件の支持を与えており、これによってイスラエルの指導者や有権者たちは身の潔白が証明されたと感じている。
しかし、ガザで実行されたようなイスラエルの犯罪的な政策に対するアメリカの支持や、ヨーロッパでの弱々しい反応が、長きに渡るガザ封鎖や窒息状況の主たる理由だと考えるのは間違いだろう。おそらく、世界中の人びとに説明するのが最も難しいことは、こうした認識や態度が、どれほど深くイスラエルの精神と思考方法に根づいているかということである。また、こうした事件や国際社会からの反応が引き起こしたイスラエルのユダヤ系社会での感情に対して、例えばイギリスでは、どれほど正反対の抗議の声が、人びとの共通の反応としてあがっているかを理解することは難しい。
国際社会からの反応の基となっているのは、パレスチナ側がもっと進んで妥協を行い、イスラエルの政治的エリートたちとの対話を継続することで、新たな現実を作り出すことができるという想定である。西洋の公的言説では、筋の通った実現可能な解決は、あらゆる人びとが、二国家解決案という最終目標にむけて力を振り絞れば、すぐに実現できると考えられている。
この楽観主義的なシナリオは真実とは全く正反対のものだ。イスラエルが唯一受け入れられるこの解決案は、ラマッラーにある従順なパレスチナ自治政府と、ガザにあるより自己主張の激しいハマースの双方が、何があっても絶対に受け入れることができないものだ。それはパレスチナ人が闘争をやめることと引き換えに、国家なき飛び地にパレスチナ人を押し込めようという提案なのである。
したがって、もう一つの解決策――私の支持する、全ての人びとのための民主的一国家案――を議論始める前に、あるいはよりもっともらしく見える二国家案の可能性を探る前に、イスラエルの公式、公的な物の見方を根源的に変える必要がある。この考え方は、イスラエルとパレスチナの粉々になった土地での平和的な和解にとって、最も大きな障害となっているのだ。
イラン・パペ:
エクセター大学パレスチナ研究ヨーロッパ・センター所長。著書に『パレスチナの民族浄化』
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以上
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