[CML 004908] 林田力「エネルギーを無駄にしない社訓」

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 7月 12日 (月) 07:37:46 JST


興味深い社訓を見つけたので紹介する。社是・社訓・経営理念・企業行動憲章・ミッションステートメント・クレドなど呼び方は色々とあるが、多くの企業では企業の経営姿勢や従業員の行動基準を定めている。

社訓は大勢の従業員を企業の目指すべき方向に合わせる上で有益なツールである。社訓という言葉自体には古びた感じがあるが、名前は何であれ、社訓に相当するものの重要性は現代の企業にとって増している。
http://www.janjanblog.com/archives/8646
現代では価値観が多様化し、従業員個々のライフスタイルを尊重することが求められている。企業は従業員の多様性を認め、尊重しなければならない。一方で企業は企業の目的を実現するために多様な従業員を一つの方向に向けさせなければならない。その為の解決策として社訓を従業員に浸透させることが考えられる。

但し社訓には立派なことが書かれているが、従業員の行動規範になっていないという企業も少なくない。「愛と誠心と感謝をこめて、お客様に愛される不二家になりましょう」という社是を持つ不二家が消費期限切れの牛乳を使用してシュークリームを製造・出荷した事件は、両者の乖離を示す典型例である。

社訓と現実の企業姿勢に乖離が生じてしまう原因として、社訓を従業員に浸透させる努力を怠っていることが考えられる。一方で社訓の内容に問題がある場合もある。抽象的な綺麗事を並べるだけで、現実的な行動規範として期待されていない場合もある。

経営者の自己満足や世間向けのアピールのために作成し、事務所に掲げ、朝礼で唱和させている。しかし、実際に行動規範となるような内容を持たないため、日々の業務では売り上げ増加・コスト削減優先で、社訓に反するような指示が日常化してしまう。

最初から社訓を世間向けの建前と割り切ってしまう場合は論外だが、社訓を浸透させたいならば、社訓の内容も実現不可能な綺麗事で終わっていないか検討する必要がある。これから紹介する社訓は示唆に富むものである。

紹介する社訓は医療用画像ファイリングシステムを提供する韓国企業の日本法人のものである。社訓では最初に「創意」「協力」「責任」「挑戦」の四つのキーワードが登場する。その下に太字で「社員としての心構え」と題して「エネルギー(体力)を無駄に使わない」と記載する。

その後で、「利益を生み出す行為」と「不利益になる行為」を箇条書きで列挙する。最後に「人を幸せにするとは、その人の願う事に対してほんの少し手を貸してあげる事」と記し、代表取締役社長の記名がある。

注目を惹く点は「社員としての心構え」である。「エネルギー(体力)を無駄に使わない」とある。通常、社訓には従業員に企業目的に沿うような行動を積極的に求める形になりがちである。しかし、同社では「無駄に使わない」である。高度成長期の日本で持て囃され、今では完全に時代遅れとなった「モーレツ社員」の対極に位置する。
http://news.livedoor.com/article/detail/4878632/
http://www.pjnews.net/news/794/20100709_6
最後の文章では「人を幸せにするとは、その人の願う事に対してほんの少し手を貸してあげる事」と記す。実にささやかな行動である。そこには「鉄は国家なり」的な社会に責任を負っているという類の的外れな気負いはない。その種の思い込みが、往々にして事業を推進することにより不利益を受ける少数の人々の声を聞こうともせず、彼らの犠牲を当然視してしまう血の通わない企業姿勢に行き着く場合がある。

記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされた(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。問題発覚後に対峙した東急リバブルや東急不動産の従業員からは事業に対する独善性と欺瞞性が強く感じられた。記者が消費者契約法による売買契約取り消しを貫き、消費者の論理に立脚したことにも、企業の独善性や欺瞞性への嫌悪感が影響している。それを踏まえれば、同社の社訓は健全である。

日本では前向きであること、積極的であることが是とされる傾向がある。理不尽な災難の被害者に対しても「頑張れ」と声をかけるような無神経なことが妥当なこととして扱われる。一番頑張らなくていい人にまで頑張らせ、また、頑張ることが美徳であるかのように受け止める風習がある。

これに対し、同社の社訓では無理に頑張ることを強制するような要素はない。日本企業の感覚からすれば異色の社訓である。このような企業が日本で成功するようになれば、人間を不幸にするシステムとまで言われた日本社会も、より多くの人にとって働きやすい、豊かで多様な社会になる。
http://www.janjanblog.com/archives/8942
東急コミュニティー解約記(1)修繕積立金不足発覚
http://news.livedoor.com/article/detail/4879711/
http://www.pjnews.net/news/794/20100711_14



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