[CML 004876] 林田力「「公設サーバ」はネット選挙の弊害を解消するか」

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 7月 9日 (金) 22:33:09 JST


【PJニュース 2010年7月9日】2010年7月の参議院議員選挙でもネット選挙運動解禁は見送られた。ネット選挙運動には依然として特定層からの根強い抵抗があることを示している。

ネット選挙運動禁止派には、ネット選挙運動推進派がネット選挙運動の利点ばかりをアピールし、問題点を考察していないという不満がある。ネット選挙運動が特定の候補者に有利に働く危険を指摘する。この点について記者はネット選挙運動を肯定する立場から記事を執筆した(林田力「ネット選挙運動は資力ある候補者に有利か」PJニュース2010年3月20日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20100707_7
しかし、管見は推進派がデメリットに目を向けようとしないことは、むしろ当然と受け止めている。多くの推進派の基底にはネット上の選挙運動は言論の自由・政治活動の自由の一環という意識があるためである。

ネット選挙運動は人権の問題であって、社会にとってメリットがあるから認めるべきという次元の問題ではない。メリットとデメリットを比較すること自体が禁止派の論理の罠に陥ることになる。仮にネット選挙運動に何らかの弊害があるならば、その弊害を生じないような方法を考えるべきであって、一律に禁止することは不当である。

とはいえ人権問題が常にメリット・デメリットの比較考量を免れる訳ではない。極端な
例を挙げれば銃器を所有する自由は弊害の方が大きいと判断され、原則禁止されている。その意味では政治活動の自由といえどもメリット・デメリット論からは完全に自由ではない。それでも権利性を強調する立場ならば、それだけでメリットの天秤を重くすることができる。

いずれにしても、ネット選挙運動解禁が見送られた以上、今後は禁止派の主張にも配慮した限定的な形でのネット選挙運動容認が模索される可能性がある。その一つに公設サーバ論がある。本記事では公設サーバ論が推進派及び禁止派の問題意識に応えられるか考察する。

公設サーバ論は候補者に選挙運動用に公設のサーバを提供するという提言である。この公設サーバ論は2通りの解釈が可能である。第1にネット選挙運動のワンノブとして公設サーバを提供する主張である。第2にネット選挙運動を公設サーバに限定する主張である。
http://news.livedoor.com/article/detail/4875802/
http://www.pjnews.net/news/794/20100708_4
前者の場合、ネット上の選挙運動は自由に行えるため、禁止派の問題意識への回答にはならない。公設サーバには全候補者の主張が掲載されるとしても、資力と資金力を有する候補者は大量に情報を流し、自前のウェブサイトに有権者を誘導できてしまう。
これに対し、後者の場合は資力と組織力にものを言わせた情報操作の弊害は生じにくい。現実になされた公設サーバ論は、この立場のものがある。たとえば福田紀彦・神奈川県議会議員(当時)がシンポジウム「インターネット選挙運動の現状と問題点を探る」(2008年7月20日)で提唱した。以下のネット選挙運動の弊害解消を狙いとする。

・ウェブサイトは誰でも開設できるとはいえ、多数のアクセスを処理できる可用性の高いサーバの設置など、結局のところ資金の豊富な候補者が有利になる可能性がある。
・サイバーテロや成りすましの危険がある。
・候補者が都合の悪い公約をサーバ上から削除して、なかったことにしてしまうのではないかとの懸念もある。

しかし、ネット選挙運動を公設サーバに限定しても、禁止派の懸念を完全に払拭できない。それどころか、新たな問題が生じる。

先ずネット選挙運動を公設サーバに限定しても、資力と組織力を利用すれば特定の候補者を目立たせることは可能である。例えば公設サーバ上にある候補者のリンクURLを掲示板やメール文言に大量に貼り付ける方法が考えられる。リンクが多いならば検索エンジンの検索結果でも上位に表示されやすくなる。

選挙活動をしていない第三者によるリンクや引用が自由であるべきことを踏まえるならば、公設サーバ限定論は選挙違反の取り締まりにおいて厄介な問題を引き起こす。取り締まり当局の広汎な裁量を認めるような中途半端な自由は、選挙活動への権力の介入をもたらす。
http://www.janjanblog.com/archives/8533
さらに公設サーバ限定論には、ネット選挙運動を全面的に自由化した場合とは別の問題点がある。ネット上の選挙運動を公設サーバに限定した場合、公設サーバは有権者が候補者を判断する上で重要性の高い媒体となる。特に日中は選挙区外の勤務先に通勤する労働者層にとっては候補者の主張を判断できる貴重な媒体である。

そのため、何らかの技術的な問題によって、選挙期間中に特定の候補者のページだけが閲覧できなかった場合、それを根拠に候補者が選挙無効を主張しかねない恐れがある。
候補者が各々サーバを調達して自由にネット上での選挙運動を展開する場合は、対立候補者による悪意ある妨害活動でも行われない限り、サーバがサービスを停止しても自己責任の範疇に入る。たとえば選挙期間中に特定の候補者が病臥して、選挙運動できずに落選したとしても、それ故に選挙無効とはならない。それと同じである。

しかし、選挙管理委員会が選挙運動用のサーバを提供する場合、提供者としての責任が生じ得る。これは選挙管理委員会にとって負担となる。実際問題として選挙の実施は地方公共団体に設置される選挙管理委員会が行っており、小規模の自治体の負担は軽くない筈である。

また、公設サーバに掲載可能なコンテンツを静的ページのみに限定するならば問題は少ないが、それではサイトとして見劣りする。動的ページを許容する場合、Apacheでの構築を希望する候補者もいれば、IISでの構築を希望する候補者も存在する。それらの希望を満たすプラットフォームを全て用意しなければならないのか、アプリケーションサーバまで提供するのか、などと考えなければならない技術的な問題が生じる。

仮に中途半端に技術的な制約を付したならば確保しているIT要員のスキル分野が相違する候補者間に不公平が生じうる。これも公設サーバを提供するために生じる問題である。

公設サーバ限定論はネット選挙の弊害回避策として提言されたものだが、そこにはネット選挙運動を単純に自由化した場合には発生しない複雑な問題が生じてしまう。多くの候補者に自前のウェブサイトを構築する能力がある現状では、ネット上の選挙活動を公設サーバに限定することも一つの規制になる。【了】



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