[CML 002987] 朝鮮人未払金の金額と問題解決の試案
小林 久公
q-ko at sea.plala.or.jp
2010年 2月 15日 (月) 13:39:59 JST
札幌の小林です
駄文ですが、朝鮮人の未払い金について書きましたのでご参考までにお送りします。ご検討頂ければ幸いです。
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朝鮮人未払金の金額と問題解決の試案
小林久公 (2010/02/13)
韓国の「日帝強占下強制動員犠牲真相糾明委員会」に届出た被害申告は226千人であるが、そのうち約16万人が労務動員被害者の申告である。だが労務動員被害者の認定資料が少なく、労務動員申告者の七割、約10万人がまだ認定できない事態が続いている。このままで事業が終わるならば、六十数年前に日本に連れてこられ強制労働させられた人々が再び悲哀と苦痛を味わうことになる。その原因は、今日の日本社会が名簿の提供をなし得ていないことによる。
これまでに日本政府が韓国に提供した労働者の名簿類は107,911人分のみであり、70万人を越える強制動員労働者の15%程度の名簿しか提供していない。
日本政府は、強制動員労働者の厚生年金、供託金、郵便貯金など個人を特定できる名簿類を持っており、韓国の委員会はその提供を繰返し日本政府に求めているが未だに提供されていない。昨年末になって法務省は政権が変わったのでと、供託金名簿類の調査を行い今年三月に提供することを表明した。これは、韓国の委員会が三年かけて日本政府と交渉してきた成果ではあるが、その他の名簿類についての大きな動きは無い。従来通り厚生年金などに個別の照会に応じているだけである。
強制動員に関わった産業団体、企業が持っている名簿類について、政府は企業にその名簿類の調査や提供を要請さえしていない。
日韓の間で解決しなければならない課題の一つに、強制動員された朝鮮人の給与などの未払金問題があり、現在までに以下のことが明らかになった。
朝鮮人の給与などの未払い金の総額を日本政府がどのように把握していたかの史料が最近見つかった。それは日韓会談の交渉資料として日本政府が計算したものだが、朝鮮人労働者、軍人軍属に対する給与などの未払い金の額を176,680,320円64銭(1953年6月26日現在)と計算している。[1]
また、朝鮮人労働者の未払い金で、全国各地の法務局に供託され、日本政府が今日まで預かっている民事供託金が80,280人 10,005,537円70銭であることも判って来た。[2]
東京法務局が管理している政令22号に基づく国外居住外国人供託の残高も明らかになった。金銭供託額167,791,400円、有価証券供託額47,355,600円である。[3]
この東京法務局の国外居住外国人供託は、朝鮮人だけでなくアメリカ人、イギリス人、当時日本の施政権が届かなかった琉球人などの債権が供託されていることも供託明細書や供託金受付簿の閲覧で明らかになった。
この供託には、船ごと徴用された朝鮮人船舶船員の未払い金311名、417,500円や岐阜の神岡鉱山の朝鮮人労働者の未払い金なども含まれているが、大部分は、朝鮮人の軍人軍属に対する未払い金供託である。
台湾人軍人軍属の供託もされていたが、台湾人にたいする確定債務支払いが行われた際に東京法務局から国庫に返戻されていることも判った。
この東京法務局の朝鮮人軍人軍属未払い金の供託については、供託名簿が既に韓国政府に渡されており分析されている。陸軍58,126名、海軍36,449名、合計94,575名。金額は、陸軍33,602,636円、海軍58,181,603円で、合計91,784,239円である。[4]
では、私たちが現在把握できる朝鮮人への未払い額はいくらになるのだろうか。上記の金額の外に、つくば分館史料によると、企業が供託していない未払い金が51,947人分、4,354,870円75銭があり、更に戦後の混乱期に第三者に渡したと企業が政府に報告しているのが17,361人分、金額で2,963,878円19銭ある。
これらを総計すると、244,474人、109,526,025円64銭である。更に、供託されていない郵便貯金、9,450,428円03銭、銀行預金13,456円49銭、有価証券55,448円57銭があり、それらを加算すると現在金額を明示できる総額は119,045,358円73銭となる。
この外に、厚生年金、郵便簡易生命保険、郵便年金保険などの未払い金の存在が考えられるが金額はまだ不明である。
日本政府は、日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決された」として、全て解決済と主張しているが、それは真実ではない。どのように解決したかについては協定では一切触れられていないのだ。
それ故に、韓国人の財産をどのように扱うかについては、国内法の定めを必要とした。日韓会談の条約協定の批准を求めた1965年の第50回国会で政府は「外交保護権だけを放棄したのであります」(椎名外務大臣)と答弁している。
即ち、協定が定めている解決とは、韓国人の財産、権利及び利益について日本がどのような処理をしようとも韓国政府は外交保護権を行使しないというものである。
ではどのように処理をするのか、それを定めた国内法が「昭和40年法律第144号」である。この法案の立法趣旨を政府は次のように説明した。
「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、・・・一方の国及びその国民の財産、権利及び利益であって、この協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対する措置について、今後いかなる主張もなされ得ないことを規定しておりますが、協定の対象となるこれらの実体的権利について具体的にいかなる国内的措置をとるかにつきましては、当該締約国の決定にゆだねられております。したがいまして、わが国については、大韓民国及びその国民の実体的権利をどのように処理するかについて国内法を制定して、同条3に言う措置をとることが必要となったわけで、これがこの法律案を作成した理由であります。」
従って、日韓基本条約や協定を変更することなく、日本政府が韓国人の財産を支払う旨の立法をすれば済むものと考えられる。
もしこの解釈に誤りがあるならば、政府は請求権協定第三条に基づいて韓国に協議を申込むなり、仲裁裁定を申請すればよい。
私が考える供託金問題の解決策は、供託金は本人に返されるものであり、韓国にその総額を渡し、韓国政府の協力を得て、各個人に支払ってもらうことが適当と考えている。
その場合、その返却に当たっては価値交換をせずに、そのままの金額を返却し、それに加えて総理大臣や関係企業団体、企業の長のお詫びの言葉とともに、その謝罪の意を表す金額を別に添えてお渡しする手法が適切ではないかと考えている。そのための立法としては、今村嗣夫弁護士らが提唱した外国人戦後補償法案が一つの参考となると思える。
戦後65年を経過した今日、戦後補償問題の解決は、被害者とその遺族に対する謝罪と補償とともに、真相究明と歴史の継承、歴史認識の形成、被害者との対話、交流を必要としている。そのような施策の実現を新政権には期待している。
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[1] 国立公文書館つくば分館所蔵、「経済協力・韓国105」の「司令部への報告、外務省への報告と吾が方調査との相違点調」文書
[2] 国立公文書館つくば分館所蔵、「経済協力・韓国105」の「労働省調査 朝鮮人に対する賃金未払債務」(1953年7月20日)
[3] 財務省理財局国有財産課への日本銀行からの月報「外国債権者円及び有価証券預託勘定」の残高である。
[4] 共同論文「朝鮮人軍人・軍属に関する「供託書」・「供託明細書」の基礎分析」(表永洙・呉日煥・金明玉・金暖英)。
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小林久公
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