[CML 002880] Re: 板垣恭介氏の本について

higashimoto takashi taka.h77 at basil.ocn.ne.jp
2010年 2月 5日 (金) 15:32:21 JST


japan guideさん

私は先のメール(CML 002768)で、天皇の戦争責任の問題と一個の人間として存在している
天皇及び天皇一族の人権の問題は区別して考えるべきだろう、と述べました。被害者、加害
者の問題を天皇及び日本人の戦争責任の問題として把捉する場合、 天皇及び日本人はア
ジアへの侵略戦争の行使者、また加担者であったことは明白な事実ですから、当然のことな
がら天皇及び日本人は《加害者》というべきであり、その加害者責任は免れない。 逆に朝鮮、
中国などアジア諸国の人々は 日本の侵略に対する被侵略者の位置にあったことはこれもま
た明白な事実ですから、 アジア諸国の人々は日本のアジア侵略戦争の《被害者》というべき
である、 というのが、天皇及び日本人の戦争責任の問題を考える際の私の根底的かつ基本
的な認識です。まず、そのことをご理解いただきたいと思います。

しかし、一個の人間として存在している天皇及び天皇一族の問題を上記の戦争責任の問題
と切り離して純粋に人権の問題として把捉しようとする場合、 「すべての人間は、生れながら
にして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(『世界人権宣言』第1条)という
普遍的な基本的人権論(天賦人権論)の立場から見ると、天皇及び天皇一族は人権宣言に
いう人間としてのア・プリオリ(先天的) な権利を数々制約されていることはこれもまた明らか
というべきですから、天皇及び天皇一族はそういう意味での「被害者」と見るべきであろう、と
いうのが先のメールで私が述べたことでした。

さて、japan guideさんは、被害者の定義を 「一般的には(略)自分が被害を受けたと思う時」
のことをいう、と規定されているように思いますが、被害者の「一般的」な概念は被害を受け
た当人の「主観的な思い」とは関係なく、被害を受けたかどうかの事実関係に基づいて規定
されるもののようです。

一般的な辞書では被害者の定義は次のようになっています。

「被害者:1被害を受けた人。2不法行為や犯罪によって権利その他の侵害や侵害の危険
を受けた者。民事上、損害賠償の請求ができ、刑事訴訟法上、告訴ができる」 (Yahoo! 辞
書『大辞泉』)

また、 インターネット百科事典のウィキペディアでは被害者の定義は次のように記されてい
ます。

「被害者とは、刑事法学(刑法学、刑事訴訟法学)では『犯罪により害を被つた者』(刑事訴
訟法230条)をいう。なお、『事件や事故等の人災などの被害にあった者』を被害者と呼ぶ」
(wiki:『被害者』)

上記の各辞書の定義からもわかるように、被害者という概念は、「犯罪」が現にあったとい
う事実、 また「被害」(広義の意味で被災など犯罪とは関係ない「被害」も含まれる)を被っ
たという事実が客観的に証明されることによって付随的に成立する概念です。被害者とい
う概念が成立するのに被害当事者の「主観的な思い」は関わりません。

だから、「自分が被害を受けたと思う」かどうかを被害者の要件とするjapan guideさんの立
論はその前提そのものが主観的なものといわなければならず、その主観的な前提に立っ
て天皇は被害者であったかどうかを問うjapan guideさんの下記の質問もすべて「天皇被害
者」論は是か非かを解明する質問にはおよそなりえていない、といわなければなりません。

それでもあえて応答しておきますと、私の応答は次のようなものになります。

1.この本に昭和天皇が被害を受けたと述べている、というような点は書かれていますか、
という質問について。

私は板垣恭介さんの著作 『明仁さん、美智子さん、皇族やめませんか』(大月書店 2006
年)を直接読んではいませんが(直接同書を読んでいなくとも、 同書が日本ジャーナリスト
会議の2006年度の〈JCJ賞〉の受賞作になった、という事実を知らせることは可能です)、
同書で板垣さんがいうところの「この本で昭和天皇を批判する文章を書いた。しかし、天皇
に生まれてしまったのは、彼の罪ではない。昭和天皇をもう作ってはいけない。かれもまた
被害者である」(CML 002700)という天皇被害者論は、先の私のメールでも述べたことです
が同書は昭和天皇の一々の言動に即して天皇被害者論を展開したものではなく、「大日本
帝国憲法下、また日本国憲法下の国家体制の中に構造として組み込まれている特殊な天
皇の位置への言及」 (CML 002768) として天皇被害者論を述べたものですから、「昭和天
皇が被害を受けたと述べている」箇所はおそらくない、と思います。それでももちろん、天皇
被害者論を述べることはできます。上述のとおりです。

2.「被害者」であるとしたら、その補償とかがなさなければならないと思うのですが、天皇は
そういう補償を要求しているのか、どういう補償をすべきか、書かれていますか、という質問
について。

上述したとおり、板垣恭介さんの著作では「一般的には(略)自分が被害を受けたと思う時」
というjapan guideさんのおっしゃる被害者の定義を採用しているわけではありませんので、
天皇が補償を要求したかどうかなどという論点も述べられていないと思います(そういうこと
とは別の問題として天皇が補償を要求した事実などもちろんないでしょう)。 それでももちろ
ん、天皇被害者論を述べることはできます。上述のとおりです。

3.「ナニモカモこの人に押し付けた」という事は、その押し付けられた結果何か反応がある、
つまり「押し付けられた」からにはどのような責任を取ったのか書かれていますか、という質
問について。

板垣恭介さんの著作にいう 「ナニモカモこの人に押し付けてしまい」 (CML 002700)の箇所
も上述のとおり、「大日本帝国憲法下、また日本国憲法下の国家体制の中に構造として組
み込まれている特殊な天皇の位置への言及」 として述べられている箇所ですから、「押し付
けられた」具体論が述べられているわけではないと思います。だから当然、「どのような責任
を取ったのか」という記述もないはずです。それでももちろん、天皇被害者論を述べることは
できます。上述のとおりです。

4.靖国神社、 私は皇軍の戦死者が奉られていると、 受け止めております。となると「被害
者」の為に戦死したということになり、戦犯もいなくなり、 聖戦となると思うのですが、そこの
あたりも書かれていますか、という質問について。

上述のとおり、 天皇の戦争責任の問題と一個の 人間として存在している天皇及び天皇一
族の人権の問題を考えることは別様のことだろう、 と私は思っています。 板垣恭介さんの
著作も普遍的な基本的人権の観点から現行の「天皇」「皇室」制度の問題点を主題化して
いる著作ですから (*)、 同書でいうところの「天皇被害者」論は靖国神社に奉られている
戦死者の問題とは関係を結ばないところで成立する「被害者」といわなければならないよう
に思います。回りくどい言い方になって自分ながらまどろこしいのですが、要は戦死者問題
と同書の 「天皇被害者」 論を結びつけるような読解のしかたは誤読というべきであろう、と
いうことを私としては言いたいわけです。
 
*『明仁さん、美智子さん、皇族やめませんか』の内容(「BOOK」データベースより):
「皇室典範に関する有識者会議は、女性・女系天皇容認に踏み切った。だが待てよ、と著
者は言う。一人の女性の、敢えて言えば「犠牲」によって天皇制を存続させようとするのは、
もってのほかだ。高齢による天皇の退位は議題にすらならなかった。いま考えなければい
けないのは、 こういう制度がこれからも必要なのかということだ。 元宮内庁記者の体験を
通して、日本人にとっての「天皇」「皇室」とは何かを根源的に問い直す」 
http://store.shopping.yahoo.co.jp/7andy/31653204.html

さらに簡明に 「あくまでも書かれているかどうかの問い合わせです」というjapan guideさん
の質問にお応えすれば、japan guideさんが問われているような内容は同書には書かれて
いないだろう、ということです。


東本高志@大分
taka.h77 at basil.ocn.ne.jp

----- Original Message ----- 
From: "japan guide" <pw30engine at yahoo.co.jp>
To: "送信CML" <cml at list.jca.apc.org>
Sent: Friday, February 05, 2010 10:40 AM
Subject: [CML 002877] 板垣恭介氏の本について


>  東本さんでも池田さんでも結構なのですが、手元に本がなく内容につ
> いて、少し聞きたい事があります。
> あくまでも書かれているかどうかの問い合わせですので、もし可能でし
> たら、教えていただけば助かります。
>
>> 1.
> 一般的には、「被害者」というのは、自分が被害を受けたと思う時、被
> 害届けを出し、自分で被害を受けたと思っていない場合、他からあな
> たは被害者ですよ、といわれることはあまりないと思うのですが、この
> 本に昭和天皇が被害を受けたと述べている、というような点は書かれ
> ていますか。
> 2.
> 「被害者」であるとしたら、その補償とかがなさなければならないと思
> うのですが、天皇はそういう補償を要求しているのか、どういう補償を
> すべきか、書かれていますか。
> 3.
> 「ナニモカモこの人に押し付けた」という事は、その押し付けられた結
> 果何か反応がある、つまり「押し付けられた」からにはどのような責任
> を取ったのか書かれていますか。
> 4.
> 靖国神社、私は皇軍の戦死者が奉られていると、受け止めておりま
> す。となると「被害者」の為に戦死したということになり、戦犯もいなくな
> り、聖戦となると思うのですが、そこのあたりも書かれていますか。
>
> ちょっと理屈っぽい、と思われるかもしれませんが、そのあたりちょっと
> ひっかかるものがありますので、ページを開き教えていていただけれ
> ば助かります。
>
>> 書かれている事に対し、いろいろな反応があって良いと思います。
> この人がこう書いているので、こう思うのが正しい的は、きついと思って
> います。
> 「半月城通信」これの近、現代史ー8戦争責任
> いろいろな受け取り方が当然あると思いますが、むつかしい言葉もなく
> 非常に面白いかと思います。紹介します。
>
> --------------------------------------
> VANCOUVER 2010 Olympic News [Yahoo! Sports/sportsnavi]
> http://pr.mail.yahoo.co.jp/olympic/
>



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