[CML 005269] 眺望阻害マンション裁判の明暗(上):林田力

Hayariki hedomura2 at hotmail.co.jp
2010年 8月 12日 (木) 08:07:29 JST


マンション購入者が眺望阻害を理由に売主を提訴した二件の訴訟を分析する。
第一に東急事件である。これは私が東京都江東区の新築マンション・アルス東陽町の売主・東急不動産を訴えた裁判である。東急不動産(販売代理:東急リバブル)は隣接地の建築計画を説明せずに販売し、引渡し後に日照や眺望が損なわれた。この裁判において東京地裁平成18年8月30日判決は、東急不動産に売買代金の全額返還を命じた(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。
第二に近鉄事件である。これは超高層マンション「ローレルコート難波」(大阪市浪速区)購入者が売主の近鉄不動産を訴えた裁判である。近鉄不動産はローレルコート難波の分譲後、当該物件の近接地に高層マンション「ローレルタワー難波」を建設した。これによりローレルコート難波からの眺望が損なわれたとして、ローレルコート難波購入者が慰謝料などを請求した。しかし、大阪地方裁判所平成20年6月25日判決は原告の請求を棄却した。
http://www.janjanblog.com/archives/12149
本件は道義的には近鉄不動産が非難されるべきことは明白である。近鉄不動産は生駒山を間近に望む眺望をローレルコート難波のセールスポイントとしていた。ところが分譲から数年後、近接地に高層マンションを建設し、自らセールスポイントとした眺望を破壊する。一生に一度あるかないかの高い買い物をした購入者が怒るのは当然である。しかし、原告敗訴というマンション購入者には厳しい判決になった。
二つの事件は状況が類似するにもかかわらず、結果は逆になった。この二つの事件を比較することで、不動産取引における消費者保護の特徴が見えてくる。本記事では2点ほど指摘する。
第一に不動産会社の悪意である。東急事件では、東急不動産はアルス東陽町の販売前の段階で隣地所有者から、隣地建物がアルス東陽町竣工後に建て替えられることを聞いていた。つまり分譲時に隣地の建て替え予定を知っていた。にもかかわらず購入者に説明せずに販売した。故に消費者契約法の不利益事実告知に該当する。
これに対し、近鉄事件において近鉄不動産が近接地を購入した時期は、原告がローレルコート難波を購入した後である。そのため、ローレルコート難波販売時に近鉄不動産が近接地に高層マンションを建設する計画を有していたとは断言できない。この点を立証しない限り、だまし売りとの結論にはならない。契約締結時に知っていたのに説明しなかった東急不動産が悪質となる。つまり東急不動産の方が悪意の度合いが高い。
第二に重要事項説明に対する対応である。両事件共に重要事項説明で、周辺環境に変化が生じうることを指摘している。東急事件では重要事項説明の場で、購入者が「重要事項説明の周辺環境の記述は隣地建物を念頭に置いているのか」と質問した経緯がある。
この質問に対し、東急リバブルの宅建主任者は「特に隣地建物を指しているのではない。一般的な記述です」と回答した。隣地建て替えを知っていた東急側が、重要事項説明の環境変化を「一般的な記述」と説明したことは虚偽の説明をしたことになる。これは裁判において有力な攻撃材料となった。
一方、近鉄事件では購入者は「近鉄不動産は重要事項説明を形式的に読み上げただけで、購入者は内容を理解していない」と主張した。しかし判決は、購入者が重要事項説明について質問せず、異議を唱えなかったと認定して、重要事項説明を了解の上、売買契約を締結したと結論付けた。
http://npn.co.jp/article/detail/16779626/
http://news.livedoor.com/article/detail/4940171/
重要事項説明は形骸化しており、悪質な不動産業者による責任逃れの口実として悪用されがちな実態は存在する。その意味で近鉄事件の購入者の主張は正当である。しかし、裁判では外形を重んじる傾向があり、「説明されたが、理解していなかった」という主張は通りにくい。この点において、近鉄事件判決は消費者保護の限界を示している。
両事件の判決が明暗を分けた理由をまとめるならば不動産会社の悪質性にある。一方で頭の体操をするならば、近鉄の方が悪質という見方も存在しうる。東急事件では隣接地の建て替え主体は東急とは別の第三者であった。これに対し、近鉄事件では同じ近鉄不動産が近接地に高層マンションを建設した。眺望を「売り」にしておきながら、自ら眺望を阻害した近鉄は、より悪質ではないか、とも考えられる。
この場合に問題が生じる。価値判断では東急事件よりも近鉄事件の方が悪質であるのに、裁判では東急事件では購入者が勝訴し、近鉄事件では敗訴した。より救済の必要性の度合いが高いローレルコート難波購入者が救済されないという倒錯した結果になる。これは真剣に検討すべき問題である。
先ず法的観点からは売買契約締結時の事情が問題になる。マンションをめぐる購入者とデベロッパーの関係は売買契約で規定される。購入者とデベロッパーの法的紛争では一次的には売買契約が問題になる。この点で契約締結時に不利益事実を知っていた東急不動産(販売代理:東急リバブル)と、近接地の建設計画を有していたとは認定されなかった近鉄不動産を比べるならば、東急が悪質という結論は動かない。



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