[CML 003781] J-Flash148:偽りのスタート(START)に終止符を打てるか?――米ロの新核削減条約

ピープルズ・プラン研究所 muto at jca.apc.org
2010年 4月 21日 (水) 17:01:12 JST


ーー【APA‐Jフラッシュ No.148】ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
米ロ両国の歴史的な合意達成! だが、浮かれてばかりはいられないとの辛口
コメント。良い方向に進みそうな時こそ、気をゆるめてはならじ。 (M)
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偽りのスタート(START)に終止符を打てるか? (マシュー・ロヤンスキー)
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1991年に調印された戦略兵器削減条約(START)の後継条約に関する
米ロ間交渉は、1年間の紆余曲折の末、ついに合意に達したようだ。米ロ間で
核に関する新たな合意を確実にすることは、オバマ政権が発足当初から目指し
ている、より広範な核不拡散および軍備管理政策の要であり、この1年間、オ
バマ大統領が主な公約を実行できるか否かを問う最大の試金石となっていた。
特に、米ロ関係の「リセット」政策の実現と、その結果としてイランの核開発
問題に対する米ロ共同戦線を築くことは、喫緊の課題であった。

核兵器の監視を続ける人びとにとって、新たな合意のめどがたたないまま第一
次START条約が失効した2009年12月5日以降の数か月間は緊張の日
々だった。しかし合意は、核軍縮の歴史を画する(少なくとも言葉の上では)
重要な2010年の3つの催しにかろうじて間に合ったようだ。3つの催しと
は、1)2009年4月5日にオバマ大統領がプラハで行った核軍縮に関する
演説の一周年記念、2)2010年4月12─13日にワシントンDCで開か
れるオバマ大統領主催の核物質安全保障サミット、3)2010年5月10日
にニューヨーク(国連本部)で189カ国が会する核不拡散条約(NPT)再
検討会議である。これら催しの一つ一つが、オバマ政権にとってSTART新
合意達成の高揚感のただ中で政治的成功を収め、広範な核政策課題の実現への
機運を高め得るまたとない機会となるだろう。

それでは、この新条約でオバマ政権の勝利は決定的…と考えるのはまだ早い。

というのは、交渉の終結が、早くもオバマ政権に少なくとも3つの大きな難問
をつきつけることになったからだ。上述の3つの歴史的催しでSTART新条
約の成果の一端でも実際に生かすチャンスが到来しないうちに。第一の難問は、
新条約そのものが規定するアメリカとロシアの核兵器削減量が十分ではないた
め、オバマ大統領とドミトリ・メドベージェフロシア大統領が宣言した完全な
核廃絶という究極の目標に向かっての進展が、限定的となったことである。ほ
とんどの報道は、新条約は昨年の夏に両大統領が署名した大枠の合意に沿った
ものとなり、配備済戦略核兵器は2200個から1600個へ、核運搬手段は
1600基から800基への削減を求めるが、(実戦用)戦術核兵器や、両国
の膨大な未配備核弾頭については触れないだろうと伝えている。新条約が発効
した場合でも、米ロ両国の全ての核戦力をざっと数えてみると、核兵器の合計
は優に1万個を超える。批評家たちは、冷戦期の軍事競争が終結してから20
年も経っていることを考えると、今回の新合意の削減数は核軍縮としてはあま
りに少なく、「バケツの中のたった1滴」、と非難するだろう。

5月のNPT再検討会議の場では、米ロ以外の核保有国、非核保有諸国、そし
て核開発の大望を抱く国々が、アメリカとロシアが、私たちが求めるNPT第
6条の「厳格で効果的な国際管理の下での全面的かつ完全な軍備縮小」をきち
んと実行するか否かを注意深く見守るだろう。しかし、この新STARTの取
り決めた削減数では国際社会の期待に応えるべくもない。また、この合意点に
至るまでの困難を考えれば、オバマ大統領が2012年に2期目の大統領選挙
を迎えるまでにさらなる削減を達成できるとは考えにくい。

ロシア側の交渉担当者たちが、多大な努力を払ってミサイル防衛他ロシアの最
優先事項に関する文言を合意文書に織り込んだにも関わらず、ロシアが新しい
核合意の実施に責任を持って関与し続けるかどうかは不透明である。近く公表
されるアメリカの「核態勢見直し」(米国の核政策の中心をなす文書で、この
一年間、米国内で喧々諤々の議論が続いていた)で、ミサイル防衛計画が新た
に増強されるようなことがあれば、あるいはそうならないまでも、ロシアの対
米「軍事的均衡」を危うくしそうな示唆があれば、ロシア側が、たとえ発効前
でも新START条約のテーブルから退席するという脅しをかけてくることに
なるだろう。以前、ロシア議会下院(ドゥーマ)の議長が、旧ワルシャワ条約
機構加盟国の中東欧諸国にミサイル防衛基地を設置する米国の計画を踏まえた
合意をぶち壊してやると脅かしたことがあったが、その時彼の腹の内には、正
にこの「退席案」があったのかもしれない。

米上院での批准をめぐる厳しい政治的駆け引きこそ、新START条約による
政治的弾みを大々的に利用する前にオバマ大統領が克服しなければならない最
大の難関である。合意の核心部の条項に公然と反対する上院議員はほとんどい
ないだろうが(そもそもこの合意は基本的内容が控えめであるうえ、何ヵ月も
前から知られているのだから)、他の目標と抱き合わせての批准をほのめかす
議員が既に数名現れている。たとえば、ミサイル防衛の予算の増額、新しい核
および通常戦略兵器の開発、あるいは、1999年に上院が否決したが、その
後オバマ大統領がすぐにも批准に向けて再提案すると約束した包括的核実験禁
止条約(CTBT)の承認阻止などの目標だ。したがって「新START」そ
のものは年内に批准できるかもしれないが、もし政権の支持者や各国の指導者
たちが「オバマ氏は長期的な核軍縮構想の重要な部分を切り捨てることで、批
准に必要な票数を確保した」と思うことになれば、批准はせいぜい「ピュロス
の勝利(非常な犠牲を払って得た引き合わない勝利)」でしかないだろう。

これらの難問があるからといって、ジュネーブにおける米ロ両国の歴史的な合
意達成の意義が低下するわけではない。どんな問題についてであろうと(現代
の国際社会における平和と安全を脅かす最大の問題は勿論)、両国をもう一度
深く実質的な二国間対話のテーブルに着かせることだけで極めて大きな意味が
ある。しかしながら、今年の4月にプラハで新条約に調印することと、昨年4
月のプラハ演説が謳ったより広大な構想を実現することとの間に、オバマ氏が
乗り越えるべき幾多の障害が立ちはだかっていることを考えると、今の段階で
シャンパンを抜いて祝うのは時期尚早だろう。
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出典:[abolition-caucus]メーリングリストより(2010年3月25日)
翻訳協力:T.M.(APA‐J翻訳チーム)
翻訳チェック:萌  監修:APA‐Jデスクチーム
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