[CML 000409] 「いまよみがえる魔女」(「イオ」3月号)

maeda akira maeda at zokei.ac.jp
2009年 6月 21日 (日) 16:43:39 JST


前田 朗です。

6月21日

国連人権理事会11会期に提出されたフィリップ・アルストン「恣意的処刑に関
する特別報告者」の報告書(A/HRC/11/2)は、魔女殺しを取り上げています。

目次

1 序論

2 諸活動

A コミュニケーション

B 訪問

3 特に重要な諸問題

A 特別報告者を支援する個人に対する報復

B 少年犯罪者の処刑禁止

C 魔女殺し

D 公開集会を規制する際の致命的な実力行使

4 結論と勧告

A 特別手続きに協力する個人に対する報復

B 少年犯罪者の処刑

C 魔女殺し

魔女殺しの箇所では、魔女の定義をしたうえで、中央アフリカ共和国、ブルキ
ナ・ファソ、インド、ガーナ、タンザニア、南アフリカ、アンゴラ、マリ、パプ
ア・ニューギニア、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ネパール、メキシコ、サ
ウジアラビアの具体例を挙げて、国際的な協力による対処の必要性を指摘してい
ます。

インドについては、2007年の女性差別撤廃委員会でも取り上げられているそ
うです。

今年の3月、私は雑誌『イオ』2009年3月号に「いまよみがえる魔女」を書
いたばかりです。下記に貼り付けます。

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雑誌「イオ」連載

ま〜るい地球の悩み事――前田朗の国際人権法入門

いまよみがえる魔女

 「魔女狩りに反対!」

 ポスターを見ても、初めは意味がわからなくて頭をひねった。「魔女狩り」っ
て、何かの比喩だろう。何を指しているのだろうか。マッカーシズムや日本の
レッド・パージのような「アカ狩り」のことだろうか。宗教対立が原因の差別や
弾圧だろうか。

 ところが違った。文字通りの「魔女狩り反対!」なのだ。ダーバンで開かれた
人種差別反対世界会議NGOフォーラムで見かけたポスターは、二一世紀のいま
現実に行われている魔女狩りを批判していた。

ダーバンの大学教授が教えてくれた。アフリカ各地で魔女狩り現象が散発してい
る。アンゴラ、コンゴ、コンゴ共和国など中央アフリカから南部にかけて、農村
地帯の少年少女が、ある日突然、魔女だと「発覚」し、追放され、殺されたりし
ている。民族対立や宗教対立とは関係ない。同じ共同体の中で魔女が名指され、
糾弾される。

にわかに信じがたい話だった。近世から近代にかけて欧州全域で大流行した魔女
狩りのように、噂や誤解や思い込みの結果として魔女が作り出され、魔女を排除
することによって共同体が日常に還っていく。そんな病にアフリカが喘いでいる。

欧州の魔女狩りは、一四世紀から一八世紀にかけて噂に基づくパニック状態で生
じた現象だが、興奮した民衆の暴走ではない。生物学や法律学の装いのもとに冷
静に惹き起こされた。悪魔と契約した徴を生物学的に確認する。近代化された刑
事裁判で「証拠」に基づいて処刑する。悪魔とは、実際にはユダヤ人、ハンセン
病患者、ムスリムなどが暗黙の対象とされた。ユダヤ人と悪意に満ちた共謀を
行った魔女が、魔術を操り、毒を盛り、キリスト教共同体を内側から破壊する。
共同体にとって異質な者、どこか微妙な差異を有する者が、魔女として裁かれ
た。犠牲になったのは女性が多かった。近代におけるフェミサイド(女性殺し)
である。

現在、コンゴの首都キンシャサには、数千人のストリート・チルドレンが暮らし
ている。魔女とみなされ迫害され、虐待されてきた子どもたちが多い。アンゴラ
北部でも数百人の子どもたちが共同体から排除され、家族から捨てられている。
まじない治療を施している呪術医こそが、魔女を名指す任務を果たしている。

バントゥ文化には、死者の世界と交信でき、他人の生命力を「食べる」魔女とい
う観念は古くからあると言われるが、同様の迷信はどこの世界にもありそうだ。
迷信から一歩進んで魔女狩りに走るのは、戦乱や貧困や飢餓、共同体の伝統秩序
の崩壊など政治経済的な原因があるはずだ。

魔女狩りの絶対生じない社会はあるのかと考えたほうが、理解するのには役立ち
そうだ。



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