[CML 000821] 北朝鮮の核問題論説: DiFilippo の第2弾
藤谷英男
fujithid at yahoo.co.jp
2009年 7月 28日 (火) 00:16:21 JST
相模原の藤谷です。
米国の社会学者アンソニー・ディフィリポが先に北朝鮮の
核問題解決に向けた論説「混迷する北朝鮮の核問題」
(5月28日TUP速報821)
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/857
を発表しました(一部紹介済み)。
その直後の地下核実験をうけて、この度改めて「北朝鮮:
瀬戸際の核の解決策」を発表したものの邦訳が、TUP速報823と
して読めるようになりました(7月27日)。
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/859
前編同様、制裁一本槍で北朝鮮を追い詰める日米の強硬策を
厳しく批判して、(米朝)平和条約の締結に向けた努力が
緊急に必要だと説いています。TUPのものであることを明記して
全文を使用する限り、転送・転載自由ですのでどうぞご利用
下さい。
以下にテキストを貼り付けます。
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TUP速報823
2009年7月27日(月)午後1時47分
北朝鮮:瀬戸際の核の解決策
◎平和条約の締結こそが北朝鮮の核廃絶への鍵
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核武装に向かう北朝鮮と、制裁の強化で核を放棄させようとする日米などの
対北朝鮮強硬派諸国のかけひきは妥協の糸口が全く見えないほどにこじれて
います。
先にコリア・タイムズ紙上で対北強硬政策の転換を呼びかけた(5月28日の
TUP速報821号「混迷する北朝鮮の核問題」参照)、米リンカン(リンカー
ン)大学のディフィリポ教授が、5月の地下核実験をうけて再び日米の強硬
路線を分析して、米朝平和条約の締結こそが北朝鮮の核問題の解決の鍵であ
ると説いています。
国家主義と軍国化の推進に「拉致問題」を最大限に利用しようとする日本の
政権と、これに呼応して自らの世界戦略の陣営に日本を引き留めておきたい
米国は、オバマ政権に代わってもブッシュ流を引き継いで対北朝鮮敵視政策
を続けています。このことが退路を断たれた北朝鮮を更なる強硬策に走らせ
ていると指摘し、宥和策に転換して解決を図るべきだとするこの主張は、北
朝鮮非難の大合唱の中でこそ冷静に耳を傾けるべきものでしょう。核のない
未来のために。
(邦訳:藤谷英男/TUP)
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2009年6月26日コリア・タイムズ(韓国日報社)所載
北朝鮮:瀬戸際の核の解決策
アンソニー・ディフィリポ
オバマ政権は発足以来、ほぼ全期間を通じて、米国と同盟国が挑発行為と呼
ぶ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の行動への対処を余儀なくされている。
北朝鮮指導部がオバマ新政権に余りに多くを余りに性急に期待したことも現
在の問題をこじらせた原因だ。
状況の好転を待つことなく北朝鮮は4月初旬、通信衛星と自称する光明星2
号を打ち上げ、これに対して国際連合安全保障理事会から事実上のお咎めを
軽く受けた。日米の政府ははるかに強力な制裁を課そうとしたのだが。北朝
鮮は憤激して、米国、北朝鮮、韓国、中国、日本およびロシアで北朝鮮の核
問題を解決するために設けられた多国間協議である六者会談に今後は参加し
ないと宣言し、可能なあらゆる方法で核攻撃能力の強化を始めると表明し
た。
懸命にオバマ政権の注意を引きつけようとして、北朝鮮は米国の祝日である
戦没者追悼記念日に二度目の地下核実験と、それに続く何発かのミサイル発
射も実行することを決意した。中国とロシアに多少牽制され、また、米国、
日本、韓国の要求よりも穏やかになったとは言え、今回、国連安保理は北朝
鮮に追加制裁を科した。それでも米国政府はいち早く拳を振り上げて、北朝
鮮の船舶を監視し、場合によっては臨検するために軍艦を派遣し、恐らくは
北朝鮮のミサイルを迎撃するために、弾道弾迎撃システムをハワイ近辺に配
備した。
1月に北朝鮮は、民主党新政権には自国と直接対話する意欲があり、正常な
国交の樹立と恒久的平和条約の締結に至るほどに二国間関係を改善する意志
があると思い描いていた。その期待に反して米国に虚を突かれたと北朝鮮は
信じている。就任演説でオバマは、拳をゆるめた国々には手を差し伸べるこ
とを語った。しかしオバマ政権は北朝鮮にはこれをしなかった。世界での指
導的役割を引き受けるでもなく、また、友好の手を差し延べるにふさわしい
場にもなったであろう北朝鮮との二国間対話を求めるでもなく、オバマ政権
は六者会談を通じての多国間協議に固執した。
これはまさに、日本政府がオバマ政権にして貰いたいとせっついていたこと
であった。日本では、1970年代と80年代に北朝鮮工作員が日本人17名を誘
拐した拉致問題が、国家主義的動機から延々とくすぶり続けている。惨憺た
る日朝関係の現状からすれば、六者会談はこの拉致問題の解決のために日本
が北朝鮮に圧力を加えることが望める唯一の場なのだ。
統一問題は棚上げにして、韓国の李明博保守政府も六者会談を北との交渉の
最適手段として受け入れた。期待を裏切られて、北朝鮮政府は早々と、オバ
マ政権はブッシュ時代を通して思い知らされた敵意にも劣らない敵対的態度
を示していると結論した。
これらのどれ一つも先軍政治に傾倒する北朝鮮の短気と性急さを正当化する
ものではない。実際、直近では2006年に米国が行った臨界前核実験も含め
て、いかなる国のいかなる種類の核実験も根本的に人類の生存に逆らうもの
である。
これらのこと全体から明らかなのは、オバマ政権の北朝鮮政策は、北朝鮮の
核保有は「絶対に容認できない」と声を揃えて言いつのる米、日、韓の、バ
ラバラの思惑のごった煮であるということだ。しかし彼らは再考する必要が
ある。北朝鮮は既に核兵器を保有している。現在の問題は、現に存在してい
るものの認知を拒絶する愚に頼る米、日、韓が大衆向けに唱えている謳い文
句とは違うのだ。そうではなくて、目下の問題は北朝鮮に核兵器とその製造
計画を放棄させることである。
北朝鮮に一方的な核兵器の放棄を要求する現在の戦略、米国が躍起になって
主唱し、他の諸国も同調している立場は、はっきり言って無効であろう。北
朝鮮は核兵器を所有し実験することは自衛のために必須であると見ている。
これは北朝鮮の主体(チュチェ)思想に基づく先軍政策のしめすところであ
る。要求と脅迫の応酬も、制裁と封鎖活動も、更なるミサイルと核実験、そ
して恐らくは戦争か、最悪の場合核の大惨事に向かわせるだけであろう。北
朝鮮にとって最も重要なことは、わずかに隠し持つ核兵器ではなく、北朝鮮
の主権の維持である。目下のところ北朝鮮は主権は核兵器で守るしかないと
確信している。
平壌でこの1月、私は一度ならず、もし米国に敵対の意図がないと確信でき
るなら北朝鮮にとって核兵器は全く無用であると、誤解の余地なく聞かされ
た。現在北朝鮮は、米国が日本と韓国の支持を受けて北朝鮮に深刻な脅威を
与えていると確信している。この事態を悪化させたのはオバマ大統領が4月
にプラハで行った演説だ。すべての核を廃絶するという米国の目標を語った
が、その目標は「早期には…恐らく私の存命中には達成されないだろう」と
いうものだった。
この核廃絶演説に北朝鮮は大いに懐疑的であった。しかしたちまちにして、
これらの言葉は完全に無意味なものに変わった。それは米国が過去に日本に
も与えたと同じように、ごく最近韓国に対しても「核の傘を含む更なる抑止
力による継続的な関与」を公式に約束したからである。韓国に公式に与えら
れた核の傘は米国の「先制核攻撃」計画の一部をなすものだと北朝鮮は信じ
ており、従って北朝鮮の見地からは核抑止力の保有の正当化を後押しするも
のである。
六者会談は一定の成功を収めたけれども、今は米国と北朝鮮政府間の二国間
対話が必要である。実際、恒久的平和条約を提供することは、核非武装化の
ためにはいとも小さな代価である。その中で、北朝鮮が核兵器計画を再開す
れば合意を破棄するとの予防条項を加えることは容易であろう。二国間対話
と並んで、休戦協定に代わる恒久的平和条約を締結することは、北朝鮮が核
保有を正当化する根拠をを直ちに失わせ、米朝関係正常化の必要条件を定め
ることになるだろう。
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アンソニー・ディフィリポは米国ペンシルベニア州リンカン(リンカーン)
大学の社会学教授。北東アジアの安全保障問題に関する著書が数編ある。
現在 ``Irrepressible Interests: Japan-North Korean Security Concerns and
U.S. Objectives."(題名仮訳『抑えきれない興味:日本と北朝鮮の安全保障
にかかる憂慮と米国の目標』)を執筆中。
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原文: Solution to Nuclear Brinkmanship
By Anthony DiFilippo
The Korea Times (2009年6月26日)
http://www.koreatimes.co.kr/www/news/opinon/2009/06/137_47507.html
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藤谷 英男
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