[CML 002501] 002500付録:ワーク・ライフ・バランスと「新雇用戦略」との関係について

higashimoto takashi taka.h77 at basil.ocn.ne.jp
2009年 12月 27日 (日) 17:45:37 JST


付録:ACW2が派遣労働者の厳しい現状を訴える要望書を厚労省に提出
      ――ワーク・ライフ・バランスと「新雇用戦略」との関係について

●付録1:2008年7月17日付記事
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「カエル!ジャパン」キャンペーン(ワーク・ライフ・バランス国民運動)という政府施策があたかも
男女共同参画政策の一環のような装いをこらして地方自治体を巻き込んで全国展開されていま
す。が、「ワーク・ライフ・バランス国民運動」は、男女共同参画政策の一環というよりも、政府
(安倍〜福田内閣)の新自由主義的な「新雇用戦略」の一環と見た方がよい、というのが私の見
方です。

上記にいう「新雇用戦略」とは、『骨太の方針2008』(2008年6月27日閣議決定)の「第2章 成長
力の強化」の「1.経済成長戦略」「具体的手段」の,両テーマそのものですが、「ワーク・ライ
フ・バランス」は、その「新雇用戦略」の中身を示すキー概念として用いられています。すなわち
ここでは、新雇用戦略=ワーク・ライフ・バランス施策という関係にあります。新雇用戦略の一環
としてワーク・ライフ・バランス施策が組み込まれていることは明らかというべきでしょう(『骨太の
方針2008』6頁)。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizai/kakugi/080627kettei.pdf
注:すでに削除されています。 

さて、確かに男女共同参画局のホームページには「ワーク・ライフ・バランス」というコンテンツが
表示されています。また、昨年の2月には男女共同参画会議の下部組織として「仕事と生活の
調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会」も設置されています。そこだけを見れば、
「ワーク・ライフ・バランス国民運動」は男女共同参画局の施策のようにも見えます。しかし、上
述したように同国民運動を男女共同参画政策の一環としてはどうしてもみなしがたい。むしろ、
ホワイトカラー・エグゼンプションやパート労働法「改正」など悪評高かった新自由主義政策的な
「新雇用戦略」の本音をオブラートに包んで隠すために、一見、男女共同参画政策のように見え
ないこともない「ワーク・ライフ・バランス」という施策を「カエル!ジャパン」などという可愛らしい
? ネーミングもつけて利用しようとしているのではないか? おそらくそうなのでしょう。

この辺の事情、新雇用戦略とワーク・ライフ・バランス論の関係については、「五十嵐仁の転成
仁語」ブログの以下の記事に詳しいです。

■6月29日(日) 「骨太の方針2008」が発表された 
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-06-29
■6月30日(月) 「骨太の方針2008」における雇用・労働問題についての記述
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-06-30
■7月1日(火) 「骨太の方針2008」における大きな変化
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-07-01
■7月2日(水) 「骨太の方針2008」における労働問題の記述の特徴
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-07-02
■7月3日(木) 注目すべき4つの会議
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-07-03

上記の五十嵐さんの分析を私流に解釈すれば、ワーク・ライフ・バランス政策導入の契機とな
ったのは、06年10月に安倍内閣になってから初めて開かれた経済財政諮問会議。そこに新た
に入れ替わった4人の民間議員(八代尚宏国際基督教大学教授、伊藤隆敏東京大学教授、
丹羽宇一郎伊藤忠商事会長、御手洗冨士夫日本経団連会長)から「労働市場の効率化(労働
ビッグバン)」政策(「『創造と成長』に向けて」)が提言されます。

翌月の12月にはこの提言を受けて、同諮問会議の下部組織として「労働市場改革専門調査会」
(八代尚宏会長)が設置され、さらに同専門調査会は、翌年の4月に経済財政諮問会議に、期
限を区切った数値目標の設定、労働時間短縮の目標、「ワークライフバランス憲章」の策定の
提起を含む第1次報告「働き方を変える、日本を変える―『ワークライフバランス憲章』の策定」
を提出します。

「この会議のまとめで、安倍首相」は、「ワークライフバランスは大切であり、少子化対策等の観
点からも重要なテーマであろうと思うので、安倍内閣として本格的に取り組みたいと思う。民間
議員から提案のあった『働き方を変える行動指針』について、政府部内で十分連携し、とりまと
めることとしたいと思うので、よろしくお願いしたい」という結語を述べます。「これによって、ワー
ク・ライフ・バランス論の正統性が確立し」、これ以後、政府部内で「ワークライフバランス国民運
動」の取り組みが急ピッチで進行することになります。

この諮問会議の2か月前に男女共同参画会議の下部組織として「仕事と生活の調和(ワーク・ラ
イフ・バランス)に関する専門調査会」も設置されていますが、その起源は、同様に経済財政諮
問会議における八代委員ら4人の民間議員の「労働ビッグバン」政策の提言あたりに求められる
ように思います。

さて、ここで注意を要するのは、「ワークライフバランス憲章」策定が提起された上記4月の経済
財政諮問会議の1月前に労働市場改革専門調査会の下部組織として設置された労働タスクフォ
ースの存在です。同タスクフォースは設置草々の5月21日に悪名高い「脱格差と活力をもたらす
労働市場へ−労働法制の抜本的見直しを」という提言を発表します。

その提言にはかつてこのMLにも一度紹介したことがあるのですが、次のように記されていまし
た。

「一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られるとい
う考え方は誤っている。不用意に最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う生産性を発
揮できない労働者の失業をもたらし、そのような人々の生活をかえって困窮させることにつなが
る。過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果となるなど
の副作用を生じる可能性もある。正規社員の解雇を厳しく規制することは、非正規雇用へのシ
フトを企業に誘発し、労働者の地位を全体としてより脆弱なものとする結果を導く。一定期間派
遣労働を継続したら雇用の申し込みを使用者に義務付けることは、正規雇用を増やすどころか、
派遣労働者の期限前の派遣取り止めを誘発し、派遣労働者の地位を危うくする・・・」

そのあまりにも「人権」感覚の欠如した労働タスクフォースの提言は、学者、労働組合、市民組
織などの激しいブーイングの嵐に見舞われ、政府すら、経済財政諮問会議の下部組織のさら
に下部組織の見解であって、政府の見解ではない、と否定せざるをえなかった代物です。

しかし、この労働タスクフォースの提言は、本音のところで、経済財政諮問会議の提言「働き方
を変える、日本を変える―『ワークライフバランス憲章』の策定」及び、『骨太の方針2008』中の
「新雇用戦略」の考え方と相似形をなしているとみなさなければならないように思います。

上記の五十嵐さんの指摘する「ワークライフバランス国民運動」が提起されるまでの経過を追っ
ていけば、そのようにみなさざるをえません。

『骨太の方針2008』における「新雇用戦略」の本音を隠すために、「ワーク・ライフ・バランス」と
いう用語が隠喩のように用いられるようなことがあっては決してならないでしょう。
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●付録2:2008年9月15日記事
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法政大学の五十嵐仁さんが私が以前に紹介した(2008年7月17日付)彼の「骨太の方針2008」
に関するブログ記事をまとめて、その論攷を『賃金と社会保障』誌(No.1472、2008年8月下旬号)
に発表しています(さらにその論攷を自身のブログ記事として発表しています)。

五十嵐さんの上記論攷は長いので引用しません。下記にアドレスのみを提示します。ご参照く
ださい。

■労働の規制緩和の現段階―「骨太の方針二〇〇八」の意味するもの(前半)
(五十嵐仁の転成仁語 2008年9月12日)
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-09-12

■労働の規制緩和の現段階―「骨太の方針二〇〇八」の意味するもの(後半)
(五十嵐仁の転成仁語 2008年9月14日)
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-09-14

すでに述べていることですが、いま、政府側の提示する新自由主義的な「ワーク・ライフ・バラ
ンス」論を明瞭に批判することができるかどうか、が私たちに問われている課題のように思い
ます。

なお、学習院大学経済学部教授の脇坂明氏は、イギリスで急速に「ワーク・ライフ・バランス」
という概念が広まった事情について「イギリスは、アメリカと同じで、伝統的には政府があまり
ワーク・ライフ・バランスに介入しないのが特徴でした。ところが、ブレアが首相に選ばれてか
ら、風向きが変わってきて政権初期のころにワーク・ライフ・バランスに政府が介入する姿勢
が強く」なったと指摘しています(関連記事:脇坂明「英国におけるワーク・ライフ・バランス」)。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/dl/s1018-4i.pdf

この指摘も示唆的です。ブレアは、新自由主義的な経済路線を大幅に取り入れた「第三の道」
の政策を掲げ、2度連続して総選挙に大勝し、1997年から2007年にかけてイギリス労働党の
長期政権を樹立しますが、このブレアの「成功」が「ワーク・ライフ・バランス」という概念を日本
政府=安倍内閣後初の経済財政諮問会議が採りいれようとした契機となったと考えられるか
らです。政府側の「ワーク・ライフ・バランス」概念導入の狙いは明瞭であるといえるでしょう。
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東本高志@大分
taka.h77 at basil.ocn.ne.jp







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