[CML 002402] 反戦の視点・その93 日米同盟の動揺 日米間に平和友好条約を結ぶ好機
加賀谷いそみ
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2009年 12月 20日 (日) 23:35:20 JST
(転載歓迎)
反戦の視点・その93
日米同盟の動揺を、日米安保条約を破棄し、
日米間に平和友好条約を結ぶ好機として大歓迎する
井上澄夫(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック/北限のジュゴンを見守る会)
まず、クイズ。下の文言を含む12月16日付社説はどの新聞社のものか。
〈米軍・普天間飛行場の移設問題で、鳩山内閣が方針を決めた。決着を来年に
先送りし、連立3党で移設先を再検討するという。しかし、これを方針と呼べる
だろうか。/沖縄の基地負担、日米合意の重さ、連立への配慮。どれにも応えた
いという鳩山由紀夫首相の姿勢の繰り返しにすぎない。ただ結論を先延ばしする
だけである。/ただ「待ってくれ」「辺野古の可能性も残っている」などと優柔
不断な態度を続けるのは同盟を傷つけ、ひいては日本の安全を損ないかねない危
険すら感じさせる。/結論を先送りし、さらに日米間の交渉が長期化する可能性
も大きい以上、普天間返還が「凍結」されることも覚悟する必要がある。辺野古
移設とセットの海兵隊員8千人のグアム移転も進まない恐れがある。/沖縄の現
実も、いっそう厳しさを増すだろう。堂々巡りのあげく、辺野古移設の受け入れ
に戻ろうといっても、県外移設への期待を高めた県民の反発で代替施設の建設が
順調に進むとは思えない。来年1月の名護市長選や秋の沖縄県知事選で、辺野古
移設反対派が当選すれば、なおさらのことだ。 〉
『読売』や『産経』、『日経』の社説ではない。答えは『朝日』である。見出
しは「普天間先送り―鳩山外交に募る不安」、つまり朝日が不安なのである。社
説の文言をもう少し紹介する。
〈危険な普天間飛行場の現実を早期に変えようとすれば、選択肢は限られてい
る。日米合意を基本に辺野古へ移設するか、本気で沖縄県外の移設地を探るかだ。
政権発足から3カ月。これまでの無策と混迷がさらに続くのだろうか。/鳩山首
相に求めたいのは、普天間の移設をめぐるもつれを日米関係そのものが揺らぐよ
うな問題にさせないことだ。出発点は同盟の重要性を新政権として再確認するこ
とにある。/日本の安全保障にとって、米国との同盟は欠かせない柱だ。在日米
軍基地は日本防衛とともに、この地域の安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役
割を担っている。/むろん、だからといって米国の軍事的合理性だけに基づいて
過重な基地負担を地元に押しつけ続けていいはずはない。最小限、どの程度の存
在がどこに必要なのか、両国で協議し、納得しあわなければならない。/首相は、
3年前の在日米軍再編をめぐる日米合意全体の見直しを目指しているのではなく、
普天間の移設先だけの問題であることをはっきりさせるべきだ。/米政府がこの
問題で鳩山政権への不信や戸惑いを深めているのは「鳩山政権は日米同盟を本当
に大事に思っているのか」という思いがぬぐえないからだろう。/普天間をめぐ
るこじれで日米両政府の円滑な対話ができなくなっては大局を見失うことにな
る。〉
◆朝日の社説は、いったい何を恐れているのか
なるほど、社説は大変な焦りと不安に満ち満ちている。同社説の主張の核心は
中見出しにある「同盟の重要性確認を」であろう。社説は米政府の思いを「鳩山
政権は日米同盟を本当に大事に思っているのか」と代弁しているが、それは社説
執筆者の思いにほかなるまい。それにしても、鳩山首相の姿勢は「日米同盟を傷
つけ、ひいては日本の安全を損ないかねない危険すら感じさせる」とまで言うの
はただごとではない。だが一体、何を恐れているのか。日米同盟、すなわち安保
条約を土台とする日米軍事同盟がこわれることである。社説は言う。
「鳩山首相に求めたいのは、普天間の移設をめぐるもつれを日米関係そのもの
が揺らぐような問題にさせないことだ。出発点は同盟の重要性を新政権として再
確認することにある。」
そしてこう断定する。
「日本の安全保障にとって、米国との同盟は欠かせない柱だ。在日米軍基地は
日本防衛とともに、この地域の安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役割を担っ
ている。」
これは米国政府の公式見解を丸ごと鵜呑みにした言い分である。日米同盟が本
当に「日本の安全保障」にとって不可欠であるのか、安保条約を土台とする米国
との軍事同盟は、果たして「日本の安全」を守ってきたのか、それにそもそも冷
戦の時代、米国の「核の傘」が日本を守っていたという証拠はあるのか、などを
検証する姿勢は微塵も感じられない。 「在日米軍基地は日本防衛とともに、こ
の地域の安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役割を担っている」というが、沖
縄から出撃した米海兵隊がイラクで「ファルージャの虐殺」に参加したことは、
アジア・太平洋地域の「安定を保ち、潜在的な脅威を抑止する役割を担う」ため
であったのか。
朝日社説の執筆者は「日米関係が揺らぐ」悪夢にうなされて夜も寝られないの
だろうが、たとえば、アメリカのベトナム侵略戦争で日米同盟が繰り返した数々
の犯罪が脳裏をよぎることはないようだ。
◆日米同盟堅持を無条件の前提とする全国紙と沖縄地元2紙の視点
もっとも「日米同盟こそ日本の安全保障にとって盤石の基盤」というイデオロ
ギーは、ほとんどの社説に共通している。「日米同盟の空洞化を避けるべき。同
盟の空洞化が具体化すれば日本の抑止力を低下させ、結果的に国民の生命・財産
を危うくする。」(12・16付『産経』、表題「普天間問題 迷走のあげ句先送
りとは」)、首相の迷走は「日米同盟の危機」をもたらし、その「影響は日米間
にとどまらない。現状は既に危険水域に入っている。」(12・10付『日経』、
表題「普天間の決断遅れで深まる3つの危機」)、「移設先決定の先送りは、日
米同盟をめぐる現在の危機的状況をさらに深める結果になる。鳩山政権が行動で
示す日米同盟の空洞化と対中傾斜に対し、懸念を覚える。」(12・16付同紙、
表題「普天間先送りが深める日米同盟の危機」)、政府の方針は「長年積み上げ
てきた日米の信頼関係を崩壊させかねない。来年の日米安保条約改定50周年に
向けて(日米)同盟を深化させる協議が開始できないだけでなく、日米関係全体
の停滞が懸念される。」(12・16付『読売』、表題「展望なき『越年』決定
は誤りだ」)、「普天間問題を、日米同盟全体を揺るがす発火点にしてはならな
い。」(同『毎日』、表題「基地移設の政府方針 普天間の永続避けよ、問われる
首相の指導力」)。
12月16日付『東京』の社説は「沖縄県の負担軽減策が、県内に新たな基地
を造るという負担強化であってはならない。」とのべ、「民主党が衆院選で訴え
た県外・国外移設の検討に軸足を移すべきだ。」と提起している(表題「普天間
越年 『県外・国外』に軸足を」)。
地方紙のいくつかを見てみよう。『北海道新聞』社説は、問題の先送りを批判
しているが、「計画の再検討は、沖縄の基地負担軽減を早期に実現させるための
現実的対応とも言えるのではないか。正念場はこれからだ。」とのべ、そこに
「日米同盟」という言葉はない(12・16、表題「普天間越年 期限設け解決の
道筋を」)。『西日本新聞』社説は、現行案の実施を求める米国の立場も当然だ
ろうが「互いの立場が異なるときにこそ、それぞれの政府が『明確な意思』を示
して議論を重ね、双方にとって最善の策を導き出す。それが、同盟国間の外交の
在り方でもある。普天間問題で日米双方から『同盟そのものが壊れる』かのよう
な議論が飛び出すのは過剰反応と言うべきだ。」と指摘している(12・16、
表題「普天間移設『成算』あっての先送りか」)。『新潟日報』社説はこうのべ
ている。「政府の真意が、名護市の米軍キャンプシュワブ沿岸部に移すとした日
米合意の修正にあるのなら、あいまいな態度は取るべきではない。/ここは原点
に返り、事に当たるべきだ。/普天間移設先は『国外か県外』と明示すべきだ。
そこからが交渉である。/双方が主張をぶつけ合い、合意点を探ることは、むし
ろ同盟の深化につながるのではないか。」(12・16、表題「『普天間』方針
これでは単なる先送りだ」)。
ここで沖縄地元2紙を見てみよう。解説は不要と思われる。12月16日付
『琉球新報』社説「普天間新方針 民意を踏まえる出発点に」はこうのべている。
〈米軍普天間飛行場問題は返還合意から13年を経て、仕切り直しになった。
/仕切り直しを「移設の頓挫」と批判する向きもある。だが、振り出しに戻すこ
とが必ずしもマイナスとは限らない。むしろこの問題は肯定的にとらえ、国民に
とってベストの策を練りだす出発点と考えたい。/ここは無理をせず、原点に立
ち返る方が賢明だ。県内に新たな軍事拠点を造る現行計画を白紙に戻し、県外・
国外移設を求める沖縄の民意も十分に踏まえた上で、道理に合った結論を導きだ
してほしい。/問題は、民意を踏まえた形で結論を導きだせるかどうかだ。辺野
古ありきの先送りであってはならない。/政府周辺からは、辺野古移設にノーな
ら普天間飛行場は動かない―との脅し文句が聞かれるが、筋違いも甚だしい。沖
縄の人々が求めたのは危険な飛行場の早期返還であって、これがいつの間にか県
内移設問題にすり替えられた。全面返還という高度な政治決断に、いつしか軍隊
の論理が入り込み、混乱を来しているのが現状ではないのか。返還の遅れは日米
政府の責任であって、県民になすり付けられてはたまらない。「越年やむなし」
は、拙速な結論を恐れた県民の苦渋の思いであることを、政府は肝に銘じるべき
だ。民意を酌んだ結論を得て、堂々と米側と交渉すればいい。〉
同日付『沖縄タイムス』社説「[普天間先送り]現行案こそ非現実的だ」はこ
うのべる。
〈来年のどの時期に政府が最終結論を出すかは見通せないが、基地問題を根本
的に見直す貴重な時間が得られたと受け止めたい。結論を急ぐと辺野古案に行き
着くしかないからだ。/鳩山由紀夫首相は名護市辺野古への移設案を見直し、別
の候補地を探す意向を明確にした。県内でも普天間の県外、国外移転の要求が高
まっていることを受け止めた対応として歓迎する。/これまで辺野古案を推して
きた県議会の自民、公明両会派も方針転換を決めており、政府案を支持する勢力
はいまや極めて少数派だ。さらに(県内の)経済界にも県外、国外を要求する声
が高まっている。この流れをつくったのは民主党の政権交代であり、後戻りはあ
り得ない情勢だ。ここはじっくり時間をかけて日米同盟の今後のあり方を展望す
る中で、「普天間」といった個別の問題を再検証する必要がある。まずは駐留米
軍の実態を再確認することから始めるべきだろう。/結論先送りが日米同盟の危
機を招く―という見方もあるが、根拠が分からない。外国軍に基地を提供するの
は受入国である、という原則を忘れた事大主義にほかならない。〉
◆問題意識からの「沖縄」の欠落
朝日の社説に戻る。社説の顕著な特徴は、沖縄の人びとの思いへの配慮がまる
でないということだ。確かに社説は「むろん、だからといって米国の軍事的合理
性だけに基づいて過重な基地負担を地元に押しつけ続けていいはずはない。」と
言う。だがそれに続けて「最小限、どの程度の存在がどこに必要なのか、両国で
協議し、納得しあわなければならない。普天間移設で問われているのは、まさに
この問題なのだ。」と続ける。「最小限の負担」を地元(沖縄)に押しつけるの
は大前提なのだ。しかも「納得しあう」のは日米両国政府で、沖縄は無関係であ
る。
社説はまた、鳩山首相の考えをおしはかって「沖縄が戦後60年以上にわたっ
て背負ってきた過重な基地負担を、歴史的な政権交代を機に軽減したいと考える
のも当然だろう。」と一応ものわかりのいいところを見せる。だが「沖縄が戦後
60年以上にわたって背負ってきた過重な基地負担」が社説執筆者にとって「我
がこと」でないどころか、執筆者が強まるばかりの沖縄の人びとの思い(県内移
設絶対反対)に強い警戒心をもっていることは、次の文言に如実に露呈してい
る。
「沖縄の現実も、いっそう厳しさを増すだろう。堂々巡りのあげく、辺野古移
設の受け入れに戻ろうといっても、県外移設への期待を高めた県民の反発で代替
施設の建設が順調に進むとは思えない。来年1月の名護市長選や秋の沖縄県知事
選で、辺野古移設反対派が当選すれば、なおさらのことだ。」
だから普天間基地移設先の決定を急げというわけだが、その文脈では「米国の
軍事的合理性だけに基づいて過重な基地負担を地元に押しつけ続けていいはずは
ない」という「正論」は姿を消してしまう。
◆出口はある
社説は言う。「危険な普天間飛行場の現実を早期に変えようとすれば、選択肢
は限られている。日米合意を基本に辺野古へ移設するか、本気で沖縄県外の移設
地を探るかだ」。
これは日米同盟に無批判に依存する者が陥る自縄自縛の論理である。
「危険な普天間飛行場の現実を早期に変えようとすれば」、同基地を閉鎖・撤
去すればいいのである。辺野古にも沖縄県外にも移設する必要はない。危険なも
のは除去するしかないのだ。鳩山首相は、米国政府に「世界一危険な」普天間基
地の即時閉鎖・撤去を不退転の決意をもって要求すべきである。それこそ、政権
交代によって成立した政権の役割ではないか。その役割を果たすことが、「対等
な日米関係」を構築する最初の一歩だろう。
社説はまた言う。
〈結論を先送りし、さらに日米間の交渉が長期化する可能性も大きい以上、普
天間返還が「凍結」されることも覚悟する必要がある。辺野古移設とセットの海
兵隊員8千人のグアム移転も進まない恐れがある。〉
これもまた、米国政府の言い分そのままである。2014年までの辺野古新基
地完成・グアムへの海兵隊司令部要員の移転(そのための費用は日本が負担)・
嘉手納以南の基地の返還(基地機能は沖縄内で統合)という3点の「統一的パッ
ケージ」は、自民党政権がブッシュ米前政権の言いなりに受け入れたもので
(「再編実施のための日米のロードマップ」、2006年5月)、もともと不当
・不平等なものであるから、その再検討を米国政府に要求することはアタリマエ
のことである。
不当な「パッケージ」を分解して、海兵隊を丸ごと、グアムにではなく、米本
土に帰還させる。遊休化している嘉手納以南の基地はただちに返還させる。嘉手
納空軍基地、キャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブ、ホワイトビーチ(軍
港)、ブルービーチ訓練場、北部訓練場などもさっさと返還させる。そういう主
体的施策を講じて、「基地のない平和な島」をどんどん実現していけばいいのだ。
朝日の社説執筆者は、なぜ出口を自ら切り開く発想をもたないのか。対米従属
を体質化している自らを鏡に映して見るがいい。かつてとことん軍部に協力して
戦争を鼓吹したことを一度も反省したことがない己(おのれ)の醜悪な姿が鮮や
かに浮かび上がるだろう。
◆日米関係の根本的転換を
日米同盟が揺らいでいるのは、安保条約という軍事条約が日米関係を根本的に
規定しているからである。朝日の社説執筆者は不安でならないようだが、軍事関
係としての日米同盟が動揺したからどうだと言うのだ。米軍再編の一環として、
キャンプ座間に移駐することになっていた米本土の陸軍第一軍団司令部は、日本
政府に相談することなく勝手に計画を取り止めた。だが、だからといって、私た
ちの生活になにか影響することはないし、米軍の勝手な振る舞いが許されるのに、
「グアム移転協定」は守られねばならないという理屈はない。
オバマ米大統領は11月の訪日時に東京で行なった演説で「米軍が世界で(ア
フガニスタンとイラクでの)二つの戦争に従事していても、日本やアジアの安全
保障への我々の関与は揺るぎない」とのべたが、米国の「核の傘」が日本を守る
という話自体がそもそも虚構である。冷戦時代に「核の傘」が日本にもたらした
ものは、安全どころかソ連の核で廃墟と化す危険だったのだ。
米軍がアジア・太平洋地域に前方展開しているのは、もっぱら米国の軍事的・
経済的権益を確保するためであって、日本の防衛のためなどではない。日米同盟
が揺らぎ始めた今こそ、安保条約を破棄し日米間に平和友好条約を締結する大好
機である。
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