[AML 8677] 「ガンジー村通信」コラム: アメリカ原住民から学んだ民主主義

Gandhi v.gandhi at dia.janis.or.jp
2006年 8月 13日 (日) 19:32:53 JST


     〜 自衛隊イラク派兵反対ハンスト・リレーマラソン 〜

                  2004年1月26日以来、本日で931日目


          ≪ ガンジー村通信  2006/8/13  vol.217  ≫


本誌HP http://www.h2.dion.ne.jp/~hansuto/

*****************************************************************【1】アメリカ原住民から学んだ民主主義       箱石桂子

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 むかしむかし、いまから1000年以上も前のこと、アメリカ大陸では部族
間の争いが絶えなかった。
 ある日、ひとりの男が現れて、長い間、いがみ合ってばかりいた幾つかの部
族に、理性と対話によって争いを解決する道を熱心に説いて回った。当時、部
族を超えて尊敬を集めていた精神的指導者ハイアワサで、現代ではピースメー
カーと呼ばれる伝説の人物である。
 彼の説得に応じて、5つの部族が平和的に共存していく道を選んだ。カユー
ガ族、モホーク族、オノンダガ族、オナイダ族、セネカ族がまとまって、イロ
コイ同盟が結成された。のちに南から移動して来たタスカローラ族も加わり、
6部族からなるイロコイ連邦になった。
 彼らは自分たちが持っていた武器という武器を集め、ホワイトパインの樹の
下に掘った穴に埋めてしまったという。
 コロンブスがアメリカ大陸を発見し、ヨーロッパ人が移住してくるのは、そ
れから数百年後、さらにアメリカ合衆国という国家が生まれるのは、それから
また何百後になる.

 当時のイロコイ連邦は、現代のアメリカでいえばペンシルベニア州、オハイ
オ州、ニューヨーク州、オンタリオとエリーの五大湖周辺と、セントローレン
ス川の沿岸などを領土にしていた。
 彼らはトウモロコシや豆、南瓜、煙草などを栽培し、湖で魚を捕って食べ、
鹿、カワウソ、ビーバーなどを狩猟し、その皮で作った衣服を着ていた。
 イロコイ同盟の名の下に、一つ一つの部族は独立を維持しながら、一部族か
ら50名ほどの代表者を出し、会議で話し合ってさまざまなことを決定した。
同等の権限を持つ2人の指揮官を立てていたが、各部族の代表者は2人の決定
を拒否する権利も与えられていたそうだ。
 西部劇ではしばしば、アメリカ原住民は頭に羽根飾りをつけ、弓矢を携えた
野蛮な武装集団として登場するが、移住してきた多くのヨーロッパ人より、彼
らの方がよほど知性も文化もあったのではないか。

 また、イロコイは母系社会であった。
 結婚も女性が男性を選び、女性が財産と子供を相続した。彼らはロングハウ
スで生活し、そこで共に暮らす住民がイロコイ社会の最小単位で、一番年長の
女性が頂点にいたという。
 ロングハウス一軒ごとに同盟会議への代表者を出し、代表者が病気になった
り死んだりすれば、彼女が新しい代表者を選ぶことになっていた。
 氏族内、部族内の問題は各々の協議で解決するが、イロコイ全体の決定事項
は、代表者たちの同盟会議で話し合う。きわめて重大な決定事項には、イロコ
イ全員が参加する大会議が開かれたそうである。ある段階までは代議制、ある
段階からは直接民主制というのは、理想的な政治形態ではないか。
 もちろん、人口や社会構造の複雑さを考慮すれば、現代の国家にそれを望む
のは無理というものかもしれない。ただ、イロコイでは女性の地位は現代より
も高く、当然のように早くから女性の選挙権を認めていた。
 このように、イロコイはヨーロッパ人よりもずっと以前に、現代の民主主義
に限りなく近いものを作り上げて、しかも実践していたことになる。

 ご存じの方もいらっしゃるだろうが、これはお伽話ではない。イロコイとい
う響きが、日本語では「色恋」に通じるせいか、どこか作り話めいて聞こえる
のかもしれない。
 もう、お気づきだろう。イロコイの連邦制度が、アメリカ合衆国の連邦制度
に似ていることを・・・。これはアメリカの建国に深く関わる話なのである。
 イギリスの植民地13州がアメリカで独立しようとしたとき、大統領制をは
じめ合衆国憲法の制定に知識を伝授し、具体的な助言や示唆を与えたのが、イ
ロコイ連邦であった。イロコイが自ら貫いてきた民主主義のヴィジョンを、新
しい国に託すために、彼らは協力を惜しまなかった。というより、イロコイの
協力なしには、独立は成し得なかったと言ってもいいだろう。
 いまやアメリカ合衆国は、自らの手で理想を掲げて、独立を勝ち取ったかの
ように大きな顔をしているが、多くの原住民の命や土地を奪い、優れた原住民
に教えを請うたおかげなのである。

 1780年代に行われた合衆国憲法制定会議には、イロコイ連邦や先住民族
諸国の代表団も含まれていたという。アメリカ建国の父たち、フランクリンや
ジェファーソンにも、イロコイが少なからず影響を与えたことは間違いない。
 アメリカ合衆国のハクトウワシの国章は、イロコイ連邦のシンボルを下敷き
にしているし、言論の自由や信教の自由、選挙制度や憲法、そして独立した州
が連合として結束する連邦制度も、まさにイロコイから引き継がれたものだ。
 かつては建国の歴史に敬意を払って、アメリカ合衆国大統領が就任するとき、
イロコイ連邦を表敬訪問するのが習わしとなっていた。その表敬訪問は、近年
のジョンソン大統領まで続いていたそうである。
 少なくともイロコイ連邦への表敬訪問を続けて、建国の精神を真摯に受け継
いできたら、いまのような傲慢な国家にはならなかったかもしれない。

 イロコイへの表敬訪問とはどういう意味か、と奇妙に思われただろうか。
 実はイロコイ連邦はいまも、アメリカ合衆国の中に存在する。ニューヨーク
州北部のオンタリオ湖南岸にある独立自治領で、1794年にアメリカ合衆国
とは主権対等、相互不可侵の条約を結んでいる。
 合衆国だけでなく国連も独立国家として認めており、イロコイ独自のパスポ
ートも発行している。FBIなど合衆国政府の捜査権も及ばない治外法権だ。
 しかし、現実にはイロコイ連邦といってもあまりに小さく、彼らもまた他の
先住民族と同じように迫害を受けて、カナダへ逃れた人々も多い。
 アメリカ国民の多くは、すぐ近くに住む人々でさえ、イロコイ連邦の存在す
ら知らずに暮らしている。ブッシュ大統領もひょっとしたらご存じないか、都
合が悪いので、記憶装置の中から削除してしまったのだろうか。

 アメリカ原住民と一括りに言うが、さまざまな部族があり、固有の文化や社
会構造、生活様式を持っていたところを見ると、もともとアメリカ大陸にいた
わけではないのだろう。長い年月の間に、段階的に海を渡ってきた人々の末裔
という見方が有力である。
 アラスカやカナダ、北米の原住民は、人種的にはモンゴロイドの系列で、東
北アジア人に近い。日本人と同じルーツの部族もいたかもしれない。中南米で
は、東南アジア人に似た部族もいるという。
 いずれにしても、入植者たちとの争いで衰退したり、あるいは入植者と混血
したり、アメリカ原住民の全貌を知ることは難しくなっている。
 日本で暮らすアメリカ人(白人)の一人は、こんなことを言っていた。
「私たちの祖先がヨーロッパから渡ってきて、原住民を殺して土地を奪ったと
言うけれど、その原住民たちだって、きっと、その前にいた人々から命や土地
を奪ったのよ。もともとは日本人に似た民族がいたと言われてるもの」
 彼女が直接、奪ったわけではなくても、どこか後ろめたい思いがあるのだろ
う。自分を納得させる理由がほしいという気持もわからなくないが・・・。

 振り返れば、いずれも争いと侵略の歴史である。しかも、いまだにそれを繰
り返している。とりわけ中東は紛争が絶えず、アフガニスタンの次はイラク、
イラクの次はレバノンとイスラエル・・・と、止まるところを知らない。
 ただ、火種を運ぶのは、いつも同じ面々である気はする。
 ジョン・ウェインが演じるヒーローのように、野蛮で未開の原住民と戦う勇
敢なカーボーイでも夢見ているのだろうか。
 アメリカ原住民のうち果敢に抵抗した部族は虐殺され、平和的な解決を望ん
だ部族も、合衆国政府から騙され迫害を受け続けた。彼らの差別と迫害の歴史
は、のちに差別された黒人や有色人種の比ではないかもしれない。
 オーストラリアやニュージーランド、そしてイギリス本国も、原住民から土
地を奪って征服した国である。
 過日のワールドカップのジダンの事件ではないが、地元民と移民、征服民族
と被征服民族、争いの種は尽きることがない。

 イロコイの人々も、かつては争いを繰り返していた。その愚かさから学び、
平和的な共存を目指して、一歩を踏み出したのである。
 「重要な決定は7世代後を考慮して行う」というのが、彼らの政策決定のベ
ースにあった。つまり、孫の孫、そのまた孫の世代にどのような影響を与える
か、それを考えに入れて政策を決定するということだろう。
 はたして、私たちは七世代後の人々の生活環境や戦争の後遺症を考慮に入れ
て、さまざまなことを決定し、行動しているだろうか。
 いまでこそエコロジーやスローフードなどが流行し、彼らの自然崇拝や生活
様式、独自の精神文化を持つ生き方にスポットが当たり、尊敬の念を抱く人々
も多くなったが、民主主義そのものが彼らの借り物なのである。
 皮肉なことに、理性と対話で平和的共存を願ったイロコイは衰退し、争いと
侵略に明け暮れる国がより力を増していく。
 素晴らしいヴィジョンを描く頭脳は持っていても、それを最後まで実現でき
ないのは、人類という種族の宿命的な欠陥だろうか。
 あれから1000年、そろそろ現代のハイアワサにご登場を願いたい。


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