[AML 0570] 脱北者の現状、朝民研への批判

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2005年 2月 23日 (水) 21:14:41 JST


  半月城です。ML[zainichi:28615] に書いた文を手直しして転載します。

  私の書き込み「変質する脱北者支援」[AML 0258](注5)に対し、朝民研なるサイ
トが批判しているようです(注1)。
  かれらは、私が「脱北問題の根本的解決は、もちろん北朝鮮住民が貧困苦から抜
けだすことにあります」と書いたことに反発しているようですが、そのもととなる朝
民研の現状認識は下記に要約されるようです。

 <石丸次郎氏は、以前は北朝鮮国内で食えなくなって中国に出てきた人が大半だっ
たが現在は自由を求めて脱出する例が多い、と指摘している(『北朝鮮難民』講談社
現代新書)。脱北者支援より前に脱北そのものが「変質」しているわけだ(注1)>

  朝民研は北朝鮮に関する情報を熱心に収集している割には、最新の情報を活用し
ていないようです。朝民研が唯一の根拠にしている石丸氏の『北朝鮮難民』は3年前
の本ですが、その内容の信ぴょう性はともかく、その本は少なくとも私への反論には
古くて使えるものではありません。
  というのも、私の書き込み「変質する脱北者支援」が問題にしているのは、ここ
一、二年の変化ですから。
  かれらが期限切れの本を持ちだしたのは、とりもなおさず、情報が豊富なかれら
が私を批判するのに、ここ一、二年の適切な情報がどうしても見当たらないので、仕
方なしに三年も前の古い資料を引っぱりだして反論の体裁を糊塗したとみられます。

  そうせざるを得なかったのは、最近の脱北者の動機は前回も書きましたが、朝日
新聞にも紹介されたように<多くが「餓え」や「生活苦」>とされており、政治的な
理由による脱北は稀とされているので(注2)、反論の材料に事欠いたからでしょう
か。
  といっても、脱北者の中には 3年前の石丸氏が強調したように「自由を求めて脱
出」する反体制的な人ももちろんいるでしょうが、これは現時点では稀なケースに
なってしまった感があります。

  反体制的な理由による国外脱出ですが、朝鮮半島全体の状況をいうと、北朝鮮だ
けでなく韓国でもそうした人は以前から跡を絶ちません。これは日本ではあまり知ら
れていないようですが、昨年も韓国から北朝鮮へ越北した人がいました。
  韓国と北朝鮮は、半世紀をすぎた現在でもいまだに休戦状態のままであり、南で
あれ北であれ、反体制的な思想の持ち主は根強く存在します。当然、そうした信念に
もとづく国外脱出は跡を絶ちませんが、そのようなレアケースをことさら強調すると
問題の本質を見失いかねせん。
  北も南も政治的に反体制的な亡命者を特筆大書して宣伝する傾向にありますが、
そんな状況にもかかわらず、昨年は韓国へ反体制的な理由で脱北したケースは稀にし
か聞こえてきませんでした。私の実感では昨年は数件あるかどうかといったところで
しょうか。昨年のデータをお持ちの方がおりましたら、お教えください。

  一方、脱北の動機として他に武夫さんがいわれるように「親戚に会いたい」とい
う理由も項目としては考えられます。何しろ韓国人の1/5は離散家族問題をかかえ
ているといわれるだけに、肉親をさがすため脱北するケースも可能性としてはありま
す。
  しかし、半世紀以上もお互いに音信不通で、生死もわからないような肉親をさが
すために脱北するというのは、実際にはレアケースです。たまに何十年かぶりに劇的
な再会をはたした脱北者もいましたが、奇跡に近いといえます。昨年はそうした話を
寡聞にも耳にしませんでした。
  ただし、すでに脱北した肉親をたよって、ブローカーの手引きで脱北する人はあ
とを絶ちません。1か月前にもそうした人たちが北京日本人学校の塀を乗り越えまし
た。これもやはりブローカーがからんでいたとみられます(注3)。

  ふたたび朝民研にもどりますが、かれらはこうしたブローカーのはたす役割や、
ビジネス化している現状にはほとんど目を閉ざしているようです。かつての「企画脱
北」で失敗したNGOの側にたつと思われるかれらにしてみれば、ブローカーの役割
を素直に認めがたいのかもしれません。朝民研はこう私を非難しました。

 <彼は、一時期流行った強引な「企画脱北」は破綻した、脱北者支援は現在ではほ
とんどビジネス化している、と論じることにより、脱北者支援をうさんくさいものと
して印象づけている(注1)>

  何しろNGOは中国の法律を犯し、危ない目に遭遇してまで得た企画脱北の成果
が、昨年は数的にはブローカーの数十分の一以下とあっては、かれらの実績そのもの
が過小評価されかねないという危惧をもっているのかもしれません。
  さらにかれらが手引きした人びとが、実は「自由を求めて脱出」したのではな
く、単に「食料を求めて脱出」したのであったということになれば、かれらの目標と
する理念をもゆるがしかねないのかもしれません。

  そのため、私が脱北の動機を韓国のメディアにもとづいてほとんどが「貧困苦か
らの脱出」と伝える言動は許しがたいものに映ったことでしょう。そうした心情を下
記で吐露しているようです。
 <もともと脱北者支援には関わっていないし賛成してもいない人物が「変質」を語
るのは小ずるいと言うしかない(注1)>

  私は脱北者の同胞として、脱北者問題の現状を正確に伝えて問題解決の一助にな
ればという思いから脱北支援の変質ぶりを紹介したのですが、これを「小ずるい」と
中傷するにいたっては書き手の良識を疑うものです。
  今や、韓国政府からも忌み嫌われるようになってしまったNGOの側に立つ人
が、NGOが脱北問題をより困難な状況に追い込んでしまった状況を総括するどころ
か、自分たち以外は脱北問題を語る資格がないと言わんばかりの主張は、あまりにも
独善的で自己中心主義的といわざるをえません。

  さらに、NGOやブローカーが韓国へ送った脱北者ですが、かれらは必ずしも幸
せな生活を送っているわけではないことをつけ加えます。
  今年、韓国mbcテレビ局は番組「南行のその後、脱北者は語る」を放映しまし
たが、脱北者の多くは自分たちのみじめな姿をさらけだすのを嫌って取材拒否をした
り、取材に怒りをあらわにしているくらいでした(注4)。
  というのも、かれらは飢餓地獄からは抜けだしたものの、韓国社会へとけ込むの
は容易でないようで、相当な経済的・精神的苦痛を味わっているようです。

  そうしたなか、mbc局は脱北一年になる朴氏を取材しました。かれは困難な就
職活動のかたわら、スーパーでアルバイトをしているのですが、生活環境の違いから
多様な商品の陳列や、電話注文品を棚から集める簡単な仕事すらままならないようで
す。
  さらに深刻なのは、韓国社会のまなざしです。隣近所の人たちの目は温かくて
も、社会は冷たいものです。朴氏が働くDマートの金社長はそうした雰囲気をこう語
りました。
       −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  世間の視線もすこし意識する必要がありますね。(脱北者を)嫌がる方もいます
から・・・それを行動にあらわす人はいないのですが、仲間内で話すときに間接的に
聞こえてきます。家族を棄て、自分たちの体制を棄てて来たために・・・事実、私た
ち韓国側からみた時、私たちの国を棄てて行った人たちとまったく同じではないです
か。
  もちろん、食べて生きるためでしょうが、そこで暮らすのが苦痛で、このように
自分たちの体制を棄てて・・・そのように否定的にみる見解もありますね(注4)。
       −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  韓国では義務である兵役から逃れるために、計画的に国外脱出する男性が時々い
ますが、こうした自国に背を向ける行動には相当厳しい目をそそぐ国柄です。その厳
しい目がそのまま脱北者にも向けられているようです。
  そうした冷たい視線や、生活環境や価値観の違い、言葉のなまりなどがかれらの
就職をはばみ、たとえ壁紙貼りなどの職業訓練を受けてもなかなか仕事にありつけな
いようです。その結果、正規の職につけた人はわずか12%、アルバイトなどが18%、
無職は42%というありさまであり、有職者の仕事はやはり3K職場が中心になってい
るようです。
  したがって、かれらの収入は惨たんたるものです。月収100万ウォン(10万円)
以下が57%、100−150万ウォンが25%、150万ウォン以上はわずか18%にしかすぎま
せん。韓国は物価が安いとはいっても、かれらは爪に灯をともすような生活を送って
いるようです。

  政府からの援助としては脱北者定着支援金として、入国時に住宅賃貸費用として
750万ウォン(75万円)、以後は3か月毎に120万ウォンが5年間払われるようですが、そ
の中から脱北を手引きしたブローカーに30万円ないしは100万円を巻き上げられるの
で、かれらは支援金の支給期間内であってもどん底の生活を強いられているようで
す。
  番組は「かれら北韓離脱住民は韓国で最極貧層にある」と紹介しましたが、韓国
社会で必死に生きようとする新住民が「最極貧層」から抜けだすことを心から願わざ
るにはいられません。

  最後に、脱北者問題は、かれらを韓国へ送り込むことで解決するのではなく、そ
れはかれらにとって新たな苦難の始まりであることを強調したいと思います。

(注1)朝鮮民主主義研究センター「脱北者支援にたいする小ずるい批判」
http://www.asiavoice.net/nkorea/archives/000115.html

(注2)朝日新聞、04/08/22
 「脱北者キソン君の『資本主義はつらいよ』(3) 脱北者についてのFAQ 」
Q1 なぜ脱北したの?
 キソン君の場合は、ある理由で朝鮮労働党党員になれなかったことがきっかけで
す。「北朝鮮では国民の7割近くが党員で、非党員に対しては明確な差別が存在す
る」というのが、彼の言い分です。ただ、キソン君のようなケースはまれで、多くが
「餓え」や「生活苦」を挙げています。出身地域別の脱北者の割合では、咸境道出身
者が脱北者の9割近くを占めています。寒さが厳しいこと、土地がやせていること、
中朝・露朝国境線に接していることなどが、その理由と言われています。
(以下省略)
http://www.asahi.com/international/seoul/TKY200408220196.html

(注3)東亜日報記事、JANUARY 24, 2005
 「脱北者8人、北京の日本人学校に駆け込み 」
北朝鮮から脱出したとみられる男女8人が24日午前3時40分ごろ(現地時間)、
中国北京の朝陽にある日本人学校に駆け込み、韓国行きを求めた。駆け込んだのは9
歳、11歳の姉妹など女子7人と20代の男子1人。
彼らは同日、塀に準備しておいた鉄製のハシゴを掛け、鉄さくを越えた後、校内に駆
け込んだ。彼らは韓国に定着した家族の助けを受け、北朝鮮から脱出したもようだ。
学校側の連絡を受けた日本大使館は中国当局に同事実を通報し、駆け込んでからおよ
そ3時間後、彼らを大使館内に移送し、事情聴取を進めている。
(以下省略)
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=060000&biid=2005012565848

(注4)韓国mbcスペシャル「南行のその後、脱北者は語る」
 日本ではスカパー331ch,KNTVで2005.2.20放映

(注5)半月城通信<変質する脱北者支援>
http://www.han.org/a/half-moon/hm108.html#No.788

  (半月城通信)http://www.han.org/a/half-moon/




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